刑事訴訟法の司法取引その9 第9章 司法取引のメリットとデメリット | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第9章 司法取引のメリットとデメリット

司法取引のメリットとデメリットをご紹介します。組織犯罪や経済犯罪には有効な手立てとされていますが、デメリットについて指摘が多いのも事実です。

 

メリット

まずは司法取引における導入のメリットを確認していきましょう。

 

裁判費用の節約

司法取引を導入することで、「裁判費用の節約」または「捜査費用の節約」が期待されています。暴力団などの組織的犯罪や、企業ぐるみの経済犯罪などは、大量の捜査員を投入します。当然のことながら、時間や莫大な費用がかかります。

 

また、裁判を行うにあたっても綿密に証拠を集め、多額の人件費を投入します。仮に、司法取引によって有力な証拠が得られれば、そのような人件費を削減することも可能です。

 

重犯罪への対応が可能

司法取引が導入されることで、これまでの組織犯罪や経済犯罪における捜査員の縮小や人件費の削減が、事実上可能になります。

 

つまり、その分人員配置や人件費を凶悪な重犯罪(殺人、強盗、強姦など)の対応に当てることもできるのです。もっとも、今回の司法取引制度では、殺人や性犯罪は対象外としているため、当該メリットは乏しいかもしれません。

 

事件の迅速な処理

今回の司法取引では、事件の有力な供述を得られる可能性があり、その分事件処理の効率が高まると予想されています。そうなれば、捜査費用や裁判費用の削減のみならず、時間を効率的に使えます。

 

企業犯罪の軽減

企業犯罪においても、財政経済関係犯罪として適用されるため、その社員から刑事処分の軽減と引き換えに、有力な供述を聞くことができます。つまり、企業全体の組織的な刑事責任を追及できるのです。

また、以前は捜査のメスを入れることができなかった組織内部にも捜査がおよぶので、それを恐れる企業による犯罪の減少も期待されます。

 

デメリット

次に司法取引において、現在指摘されているデメリットについてご紹介します。司法取引を導入している欧米では、さまざまな弊害が生じているといいます。その実態についてみていきましょう。

 

黙秘権の侵害

刑事事件の捜査において、取調べに対して沈黙し陳述を拒むことができる権利を、黙秘権といいます。

 

黙秘権は、警察の取調べの際などに、被疑者の不利益になるような情報を強要してはならないという、憲法および刑事訴訟法で認められている権利です。

 

しかし、司法取引制度によって検察側が被疑者に減刑という特典をちらつかせることで黙秘権の侵害に繋がる可能性があるという指摘があります。また、被疑者が減刑欲しさから虚偽の情報を申告する可能性もあるという指摘もあります。

 

客観的証拠収集がおろそかになる

司法取引制度が多用された場合、検察官が取引の結果引き出された供述証拠に偏重してしまう可能性があります。

 

供述調書は供述者の主観に左右されるため、客観証拠に比べて事実認定の根拠とするには危うい側面があります。仮に司法取引制度を実施した結果、上記のような供述調書への偏重が生じれば、刑事裁判手続きの事実認定の確度が低下し、国民の刑事裁判に対する信頼が失われるおそれすらあります。

 

客観的証拠収集の捜査がおざなりになれば、そもそも司法取引制度そのものが崩れかねない事態となるのです。