代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と目的物の賃借権社の地位 所有権移転 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と目的物の賃借権社の地位

 

 

              所有権移転登記手続請求上告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和47年(オ)第74号

【判決日付】      昭和47年9月22日

【判示事項】      代物弁済予約形式の債権担保契約における債権者の清算義務と目的物の賃借権社の地位

【判決要旨】      代物弁済予約形式の債権担保契約を締結し、これを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者が、予約完結権を行使したうえ、担保目的実現の手段として本登記をするため、後順位で目的物につき賃借権の登記をしている賃借権者に対し、その承諾を訴求する場合においては、賃借権者は、右債権者に対し清算金と引換えにのみ、本登記の承諾義務の履行をなすべき旨を主張することはできない。

【参照条文】      民法369

             民法482

             不動産登記法

             不動産登記法105

             不動産登記法146

【掲載誌】        金融法務事情666号27頁

 

 

事案の概要

 本件事案は次のようなものと思われる。XはAに対し貸金債権を有し、これが債権を担保するため、A所有の本件土地建物につき代物弁済の予約がなされた。そして、これが予約に基づき、Xは右土地建物につき所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。その後Aは右土地建物につきYのため賃借権を設定し、賃借権の登記が経由された。AはXに対し右債務の弁済をしないので、Xは、代物弁済の予約完結の意思表示をし、右仮登記に基づく本登記をAに対して請求し、そして、Yが右本登記をするについての登記上の利害関係人であるので、Yに対し右本登記をするについての承諾を求める。これに対し、Yは、自分はAに対し債権を有し、その債権担保のため右の賃借権を設定したのであるから、抵当権者に準じ、Xに対し清算金中自分に支払うべき金銭の支払と引換えにのみ承諾すべき義務があるにすぎないと争つたものである。

 

 

民法

(代物弁済)

第四百八十二条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

 

不動産登記法

(仮登記に基づく本登記)

第百九条 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者(本登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。

2 登記官は、前項の規定による申請に基づいて登記をするときは、職権で、同項の第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。

 

       判 決 理 由

 

上告代理人阿部甚吉、同滝井繁男、同木ノ宮圭造、同阿部泰章、同仲田隆明の上告理由について。

 上告人の第一審判決別紙第一目録記載の土地、建物(本件物件)についての賃借権は、その利用価値の取得を目的とするものである旨の原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠関係に照らして首肯するに足り、その過程に所論の違法はなく、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の右賃借権の登記は、被上告人ら先代滝川□の本件物件についての代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記におくれるところ、□は、適法に右予約の完結をしたものであり、そして、被上告人らが右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続を経由したのちは、上告人は右賃借権をもつて被上告人らに対抗することができないから、上告人は、被上告人らに対し、被上告人らが右本登記手続をするについて承諾を与え、右本登記手続が経由されることを条件として本件建物を明け渡し、第一審判決別紙第二目録記載の建物を収去してその敷地を明け渡すべき義務があり、上告人は、右義務の履行につき、被上告人らに対して清算金の引換給付を求めえないものというべきであつて、これと同一結論の原判決は正当として是認するに足りる。それゆえ、論旨は採用することができない。(裁判長裁判官 岡原昌男裁判官 色川幸太郎・村上朝一・小川信雄)