宅地建物取引業者が顧客に投資目的の土地売買契約を締結させる際の勧誘行為が違法であるとして、右契約 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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宅地建物取引業者が顧客に投資目的の土地売買契約を締結させる際の勧誘行為が違法であるとして、右契約締結行為につき、右業者たる会社とその代表取締役に不法行為責任が認められた事例

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第5229号

【判決日付】      昭和63年2月24日

【判示事項】      宅地建物取引業者が顧客に投資目的の土地売買契約を締結させる際の勧誘行為が違法であるとして、右契約締結行為につき、右業者たる会社とその代表取締役に不法行為責任が認められた事例

【参照条文】      民法709

             宅地建物取引業法37の2

【掲載誌】        判例タイムズ680号199頁

             判例時報1292号117頁

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

宅地建物取引業法

(事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等)

第三十七条の二 宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所(以下この条において「事務所等」という。)以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主(事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く。)は、次に掲げる場合を除き、書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。この場合において、宅地建物取引業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

一 買受けの申込みをした者又は買主(以下この条において「申込者等」という。)が、国土交通省令・内閣府令の定めるところにより、申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算して八日を経過したとき。

二 申込者等が、当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき。

2 申込みの撤回等は、申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる。

3 申込みの撤回等が行われた場合においては、宅地建物取引業者は、申込者等に対し、速やかに、買受けの申込み又は売買契約の締結に際し受領した手付金その他の金銭を返還しなければならない。

4 前三項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

 

 

 一、X(21才の会社員)は、宅地建物取引業者であるY1社の若い女性従業員が電話で申入れて来て応じた、アンケート調査と称する喫茶店での面接で、土地が利殖対象として有利である旨の話をされた後、誘われるまま、Y1社が分譲販売している兵庫県加東郡社町の東条湖ランド付近の山林の中にある崖地(=本件分譲地)に赴いた。

Xは、右土地の現況を見て、当初はそれを購入する意思はなかったところ、案内したY1社の従業員(男性1名、若い女性2名)から、見学の途中のみならず、付近の旅館の1室で昼食を伴にしながら、約1時間にわたり、本件分譲地付近は1坪14、15万円するところをY1社はその半分の価格で販売していること、社町の5か年計画に伴い、工場等が誘致されることによって、本件分譲地の値上りは確実であること、Y1社の方で1年経てば責任をもって転売し、そうすれば、銀行預金よりも安全、確実、有利であること等を繰返し説明されるに及んで、右分譲地を購入すれば、将来転売により銀行金利以上の利益は期待できると考え、その中の一区画(=本件土地)を購入することを決意し、その場で契約書に署名して売買契約を成立させた。

 しかし、Y1社の従業員は、右契約締結の際、宅地建物取引業法37条の2第1項により業者に義務づけられている、クーリングオフ権の存在及びその行使方法につき書面で告知することを行っておらず、また、その後、Y1社の従業員の前記説明が虚偽のものであったことが判明したため、Xは、Y1社及びその代表取締役のY2に対し、勧誘行為の違法等を理由とする共同不法行為による損害賠償請求として、Xが支払った手付金、登記費用、代金支払のための手形決済金(=既払額)と慰藉料、弁護士費用の合計77万5000円の支払、Y社に対しては選択的に、クーリングオフ権による契約解除等に基づく原状回復請求として、右既払額の支払及び未決済手形の引渡を求める本件訴訟を提起した。

 二、本判決は、まず、地目山林で、現況も造成なしでは建物が建たないような本件土地の売買契約について、区画割、道路が存在していたことと、別荘用地として販売されていたことを理由に、宅地建物取引業法37条の2第1項の適用を肯定し、クーリングオフ権による契約解除を認めた。

 次に、判決は、本件売買契約について、本件土地は別荘地に適するとしながらも、実際の利用を目的とせず、土地値上りによる転売利益取得を主たる目的としたものであったと特徴づけたうえで、その転売利益取得の可能性に関し、(1)本件土地の価格は、実際は1坪あたり約723円にすぎないのに、1坪の時価14、15万円である旨説明して、その半額で安価に販売しているように装っていたこと、(2)実際、社町の開発計画が本件土地価格に影響を及ぼすことや、本件土地価格が、(1)のように時価より著しく高額な本件代金額以上に値上りすることの可能性は全くないのに、1、2年後には大幅に値上りする旨断定的に説明したこと、(3)本件土地と代金額以上の価格で転売することは困難であるのに、1年後の転売を確約したことに加え、(4)勧誘行為全般につき、殊更若い独身男性で不動産・投資取引に無知の者を選んだうえ、若い女性社員を使って関心を引き、現地見学をさせ、十分な考慮の余裕を与えずに旅館で同様の説得を繰返したことなどの点において、Xをして虚偽の説明を誤信させるような意図的な方法をとっており、このような勧誘方法は、業者として許容される正常な宣伝、勧誘行為の範囲を著しく逸脱したものであるとして、勧誘行為の違法性を肯定した。

そして、Y1社については、右違法な勧誘を営業方針として組織的に行っていたものとして、また、Y2については、右違法な営業方針を推進して来たものとして、Y1社自体及びY2それぞれに不法行為責任を認めた(なお、Xの被った損害については、前記Y1社に対する既払額と弁護士費用の合計57万7500円を認め、Xの精神的苦痛は、財産上の損害の回復によって償われるとして、慰藉料は認めなかった。)。