家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無 家屋明渡請求事件 最高裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無

 

 

              家屋明渡請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和40年(オ)第1435号

【判決日付】      昭和42年2月21日

【判示事項】      家屋賃借人の死亡と内縁の妻の賃借権の承継の有無

【判決要旨】      家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない。

【参照条文】      民法601

             民法896

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集21巻1号155頁

 

 

 

民法

(賃貸借)

第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

 

(相続の一般的効力)

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

 

 

平成三年法律第九十号

借地借家法

(居住用建物の賃貸借の承継)

第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。

 

 

 

       主   文

 

 原判決中、上告人Aに対して昭和三三年一月一日から同三五年八月二日まで一箇月一、六〇〇円の割合の金員の連帯支払を命じた部分を破棄し、右部分に関する被上告人の請求を棄却する。

 上告人Aのその余の部分に対する上告を棄却する。

 上告人Bの上告を棄却する。

 訴訟の総費用はこれを二〇分し、その一を被上告人その余を上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人堂下芳一、同服部明義の上告理由第一について。

 原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)が確定した事実関係のもとにおいては、上告人Aは亡Cの内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、右Cの死亡後はその相続人である上告人Bら四名の賃借権を援用して被上告人に対し本件家屋に居住する権利を主張することができると解すべきである(最高裁昭和三四年(オ)第六九二号、同三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二四五五頁参照)。しかし、それであるからといつて、上告人Aが前記四名の共同相続人らと並んで本件家屋の共同賃借人となるわけではない。したがつて、Cの死亡後にあつては同上告人もまた上告人Bら四名とともに本件家屋の賃借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。

 原判決には右のような違法があるが、本件家屋の賃貸借関係について他の共同賃借人三名の代理権を有していた上告人両名に対して被上告人の先代Dがした該賃貸借契約解除の意思表示が有効であること後記(上告理由第二、第三についての判断説示参照)のとおりであるから、右の違法は上告人らに対して本件家屋の明渡を命じた原判決にはなんら影響を及ぼすものでないことは明らかである。また、原審確定の事実によれば、右賃貸借の終了後は上告人らはいずれも本件家屋を法律上の権原なくして占有し賃料相当額の損害を加えつつあるというのであるから、上告人らに対してその不法占有期間について右損害金の連帯支払を命じた原判決にも影響がないものというべきである(被上告人の損害金の請求は、債務不履行に基づくものと不法行為に基づくものとが選択的になされているものと解される。)。

 しかしながら、上吉人Aは、前記のとおり、Cの死亡後本件家屋の賃借人となつたのではなく、したがつて、昭和三三年一月一日から本件賃貸借の終了した昭和三五年八月二日までの間の賃料の支払債務を負わないものというべきであるから、原判決中同上告人に対して右賃料の支払を命じた部分は失当として破棄を免れず、右部分についての被上告人の本訴請求は棄却すべきものである。

 同第二、第三について。

 原判決が確定した事実関係(所論のように、Eが昭和三五年当時の住民票のうえで別世帯を構成していたとしても、その結論に影響がない。)のもとにおいては、上告人両名は本件家屋の賃借権を相続によわ取得したE、FおよびGの三名の代理人として被上告人の先代Dのした本件催告ならびに賃貸借契約解除の意思表示を受領したものと認めるべきであるから右三名にも本件解除の効力が及ぶものであるとした所論原判示は、正当というべきである。また、所論は、上告人らの右代理関係の事実については被上告人が原審において主張していないところであるというが、本件記録に現われた被上告人の主張の全趣旨に徴すれば、所論の事実をも主張するものと解しえないものではないから、原審には所論弁論主義違背があるとすることもできない。論旨は、ひつきよう、独自の法律的見解に立却するか、もしくは原判示にそわない事実を前提として、原判決を非難するものであつて、採用するを得ない。

 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九五条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷