ホテルを経営する株式会社が手形の不渡りを出したことがないのに支払不能の状態にあるとして破産宣告に対する即時抗告が棄却された事例
破産宣告決定に対する即時抗告申立事件
【事件番号】 名古屋高等裁判所決定/平成7年(ラ)第148号
【判決日付】 平成7年9月6日
【判示事項】 ホテルを経営する株式会社が手形の不渡りを出したことがないのに支払不能の状態にあるとして破産宣告に対する即時抗告が棄却された事例
【参照条文】 破産法112
破産法126
【掲載誌】 判例タイムズ905号242頁
【評釈論文】 判例タイムズ臨時増刊945号306頁
支払不能とは、債務者の弁済能力が欠乏して金銭調達の見込みがなく、即時に弁済すべき債務を一般的かつ継続的に弁済することができない客観的状態をいうものと解されている(斎藤秀夫ほか・注解破産法改訂2版677頁〔谷合克行執筆〕)。
事案の概要
Yは、ホテル業等を営む資本金4000万円の株式会社A(元代表者X)に対する債権を譲り受けた後、裁判所にAが支払不能又は債務超過の状態にあることを理由に破産申立てを行い、その決定を得た。
Xは利害関係人として即時抗告を申し立て、Aは資産評価の高い優良なホテルを有していて、正常に営業を続けていること、Aが保証人となっている主債務者のB社は、土地や立木を有し、借入債務を完済することができること、Yの破産申し立ては、権利濫用であることを主張した。
本抗告審決定は、Aの資産内容に関する税理士と公認会計士による2通の書面を比較検討し、Aの継続企業価値を基準とした資産内容は、総資産額が51億1424万円、総負債額が50億4968万円で、6000万円の資産超過であると認定したが、資産超過は帳簿上のもので、超過額も6000万円に過ぎず、固定資産は営業継続を前提とする以上、他に売却などして債務の弁済に当てることはできず、流動資産により貸金債務及び租税債務等を一時に支払う余裕がないことなどを総合勘案すると、Aが破産宣告まで1回も手形等の不渡りを出したことがなかったとしても、現時点において、支払不能の状態にあると推認せざるを得ないとし、Xの即時抗告を棄却した。
したがって、債務者が財産を有していても、換価が困難な場合には支払不能ということもありうる。
平成十六年法律第七十五号
破産法
(定義)
第二条
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法(平成十八年法律第百八号)第二条第九項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。