「イオン歯ブラシの使用方法」という発明の特許出願について、その技術内容が人体の存在を必須の構成要件とするものであるから、特許すべきではないとした事例
特許願拒絶査定に対する審判の審決取消請求事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和43年(行ケ)第158号
【判決日付】 昭和45年12月22日
【判示事項】 「イオン歯刷子の使用方法」という発明の特許出願について、その技術内容が人体の存在を必須の構成要件とするものであるから、特許すべきではないとした事例
【参照条文】 特許法29
【掲載誌】 判例タイムズ260号334頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト86号42頁
特許法
(特許の要件)
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
判 決 理 由
二、そこで、本件審決に原告主張のような違法があるか否かについて検討する。
(編注、本件審決理由の要旨次の通り)
本件審決理由の要旨
本願発明の要旨は、「直流電源の負極に接続する金属端子を、弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたイオン歯刷子の前記電源の電圧を三V以上となし、以て市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法。」にあるものと認められるにあるものと認められる。そして、右認定の要旨によれば、本願発明は、結局、人体への弗素のイオン化導入法を利用した歯刷子の使用方法であつて、これによつて、人体歯髄、腔内における乳酸菌等の発生とその繁殖力を抑制して、むし歯の発生を防止することを目的とするものであるから、本願発明にあつては、当然人体そのものが必須の構成要件とならざるをえない。このように、人体の存在を必須の構成要件とする発明は、たとえ、その構成要件中に「イオン歯刷子」という自然力利用の技術的手段があつたとしても、全体として、産業上直接利用できないものであるから、本願発明は、特許法第二九条に規定する特許要件を具備しないものである。)
原告は、当初提出した本願明細書において、発明の各称を「イオン歯刷子」とし、発明の詳細な説明の項における本願発明の棒成の説明として、弗化物を含む歯磨中の弗化カルシウムを有効にイオン化し得るようにしたことを特徴とする「イオン歯刷子」の構成を示し、かつ実施例の説明において、これを使用した場合の効果を述べたうえ、特許請求の範囲の項の記載を、「直流電源の負極に接続する金属端子を弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたものにおいて、前記電源の電圧を二V以上となし、もつて前記弗化物を含む歯磨中の弗化カルシウムを有効にイオン化し得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子。」としていたこと、しかるに、昭和三九年八月五日付手続補正書を提出して、発明の名称を「イオン歯刷子の使用方法」と訂正したほか、発明の詳細な説明の項において、本願発明の構成についても、イオン歯刷子の構造を従前どおり(但し、電源電圧は三V以上とする)示したうえで、「以て、市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法」と訂正し、かつ、特許請求の範囲の記載を、「直流電源の負極に接続する金属端子を弗化物を塗布すべき歯刷子体の植毛部又はその附近に取付け、前記電源の正極を人体の適所に電気的に接続し得るようにしたイオン歯刷子の前記電源の電圧を三V以上となし、以て市販の弗素入り歯磨の弗化物が弗化カルシウムに変化したときにも、これを電解して弗素イオンを生じ得るようにしたことを特徴とするイオン歯刷子の使用方法。」と訂正したことを認めることができる。右認定の経過事実に〈書証〉を総合検討すると、原告は、当初「イオン歯刷子」という物の発明として出願した本願発明明を、補正により、人体への弗素のイオン化導入法を利用した「イオン歯刷子の使用方法」という方法の発明に変更したものであり、その要旨は、前掲当事者間に争いのない本件審決理由中の認定のとおりのものというべく、したがつて、本願発明は、方法の発明として、人体の存在を必須の構成要件とするものと解するのが相当である。他に、右認定を左右すべき証拠はない。
そうすると、本件審決が本願発明の要旨の認定を誤り、ひいてその特許要件に関する判断を誤つたとする原告の主張は、すでにその前提において理由のないことが明らかである。
三 以上のとおりであるから、本件審決に原告の本訴請求を理由なしとして棄却・・・・・・する。