石鹸を指定商品とする商標「主婦の友」と商標法第2条第1項第11号
最高裁判所第3小法廷判決/昭和29年(オ)第251号
昭和30年7月5日
商標登録拒絶査定審決取消請求事件
【判示事項】 石鹸を指定商品とする商標「主婦の友」と商標法第2条第1項第11号
【判決要旨】 石鹸を指定商品とする商標「主婦の友」は株式会社主婦の友代理部取扱の商品と誤認を生ぜしめる虞があり商標法第2条第1項第11号にあたる。
【参照条文】 商標法2-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集9巻9号1020頁
商標法
(定義等)
第二条1項 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人鈴江武彦の上告理由第1点について。
論旨は所論甲、乙の2つのことを前提として、原判決は商標権の範囲を不当に拡大して、商標法2条1項11号の適用を誤り、ひいて憲法13条、29条に違反するものであると主張する。すなわち論旨は先ず(甲)「石鹸等の雑貨については一般需要者は商標についての注意は重きをおかないことが一般経験則である。」と主張するけれども、そのような経験則は認められない。従って原判決が、「一般世人は原告の販売する石鹸を、株式会社主婦之友社代理部において取扱販売している商品と誤まり考え、その出所の混同を生ずる虞が多分にあるものといわなければならない、」とし、「石鹸のように広く一般家庭主婦が購買、消費する商品にあっては、これらの購買者について生ずる混同誤認のおそれは1層重視されなければならない」との理由を以て上告人の請求を斥けたのは相当であって、これを目して所論のように商標権の範囲を不当に拡大したものということはできない。また論旨は(乙)証人Aが「著名なのは雑誌だけだ」と述べていると主張するけれども、弁論調書にはそのような記載はない。従ってAの証言は所論のように明確な誤認のないことの反証とはならない。右の次第であるから、所論甲及び乙を前提とする違法違憲の主張はすべて理由がない。
同第2点について。
論旨は、原判決は、主婦之友社代理部の化粧品等の販売実績を具体的に示さず、また証拠によって認定していない、と主張する。しかし原判決は、判文上明らかなとおり、「右代理部における元年間の商品の取扱額は約1億2、3千万円、うち石鹸は大体百万円位である」ことを適法な証拠を綜合して認定しているのである。論旨は理由がない。
同第3点について。
論旨は判例違反を主張するけれども、援用の判例は本件とは事例を異にし適切でない。
同第4点について。
石鹸等の雑貨については一般需要者は商標についての注意は重きをおかないものであるという一般経験則のないことは前記のとおりである。このような一般経験則あることを前提とする論旨は採用できない。原判決は論旨援用の判例に反するものでないこと明らかである。
同第5点について。
論旨挙示の事例は多くは商品を異にしており、本件の先例とするに足りるものはない。援用の判例も「具体的に諸般の事情を観察してこれを判定すべき」ことを判示しているのであるから、原判決がこの判例に違背しているということはできない。
同第6点について。
論旨は主婦之友社がその取扱石鹸に商標を附していないのに、雑誌と石鹸との間に特別な関係があるとした原判決は違法であると主張する。しかし株式会社主婦之友社は雑誌「主婦之友」を発行しているかたわら代理部の名称を用いて、通信販売及び売場経営によって、図書、繊維製品、薬品、化粧品等の取扱販売をしているのであって、右取扱商品中石鹸は他社の製品であり、「主婦之友」なる商標を用いていないけれども、上告人の指定商品石鹸に「主婦の友」なる商標を使用すれば、主婦之友社取扱の商品と誤認せられる虞があることは明白であるといわなければならない。それ故原判決には所論のような違法はない。
以上の理由によって、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員1致の意見を以て、主文のとおり判決する。
最高裁判所第3小法廷