綴りが分からなくても発音から単語を検索できる英語辞書を引く方法の発明について,自然法則を利用した | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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綴りが分からなくても発音から単語を検索できる英語辞書を引く方法の発明について,自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく,特許法2条1項所定の発明に当たらず,同法29条1項柱書きの規定により特許を受けることができないとした審決を取り消した事例

 

 

審決取消請求事件

【事件番号】      知的財産高等裁判所判決/平成20年(行ケ)第10001号

【判決日付】      平成20年8月26日

【判示事項】      綴りが分からなくても発音から単語を検索できる英語辞書を引く方法の発明について,自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく,特許法2条1項所定の発明に当たらず,同法29条1項柱書きの規定により特許を受けることができないとした審決を取り消した事例

【参照条文】      特許法2-1

             特許法29-1

【掲載誌】        判例タイムズ1296号263頁

             判例時報2041号124頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      知財管理60巻11号1871頁

             発明107巻10号64頁

             知的財産法政策学研究34号373頁

 

 

特許法

(定義)

第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。

3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為

三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

4 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

 

(特許の要件)

第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

 

 

 

       主   文

 

 1 特許庁が不服2005-1619号事件について平成19年10月30日にした審決を取り消す。

 2 訴訟費用は被告の負担とする。

 

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   主文同旨

第2 争いのない事実

 1 特許庁における手続の経緯

   原告は,発明の名称を「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書」とする発明につき,平成15年5月30日に特許出願(特願2003-154827号。以下「本願」という。)をした。

   原告は,本願につき平成16年10月26日付け手続補正書(甲3)により明細書の補正をしたが(以下,同補正後の明細書を「本願明細書」という。),同年12月17日付けで拒絶査定を受けたので,平成17年1月31日,これに対する不服の審判請求(不服2005-1619号事件)をした。特許庁は,平成19年10月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月8日,原告に送達された。

 2 特許請求の範囲

   本願明細書の特許請求の範囲の請求項3の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。

  「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書の段階的相互照合的引く方法。対訳辞書の引く方法は,以下の三つの特徴を持つ。一,言語音の音響物理的特徴を人間視覚の生物的能力で利用できるために,英語の音声を子音,母音子音アクセント,スペル,対訳の四つの要素を横一行にさせた上,さらに各単語の子音音素を縦一列にローマ字の順に排列(判決注「配列」の誤記と認める。誤記であることにつき審決も同じ。)させた。二,英語音声を音響物理上の特性から分類した上,情報処理の文字コードの順に配列させたので,コンピュ-タによるデータの処理に適し,単語の規則的,高速的検索を実現した上,対訳辞書を伝統的辞書のような感覚で引くことも実現した。三,辞書をできるだけ言語音の音響特徴と人間聴覚の言語音識別機能の特徴に従いながら引くようにする。すなわち,まずは耳にした英語の音声を子音と母音とアクセントの音響上の違いに基づいて分類処理する。次に子音だけを対象に辞書を引く。同じ子音を持った単語が二個以上有った場合は,さらにこれら単語の母音,アクセントレベルの音響上の違いを照合する。この段階的な言語音の分類処理方法によって,従来聞き分けの難しい英語音声もかなり聞き易くなり,英語の非母語話者でも,英語の音声を利用し易くなった。以下ではさらに詳しく説明する。英語の一単語に四つ以上の要素(基本情報)を持たせ,辞書としての本来の機能を果すだけでなく,これらの基本情報の段階的相互照合的構造によって,調べたい目標単語を容易に見つける索引機能も兼ねる。探したい目標単語の音声(音素)に基づいて,子音音素から母音音素への段階的検索する方法の他に,目標単語の前後にある候補単語の対訳語,単語の綴り字内容を相互に照合する方法という二つの方法によって目標単語を見つける。まずは目標単語の音声から子音音素を抽出し,その子音音素のロ?マ字転記列(判決注「ローマ字転記列」の誤記と認める。誤記であることについて審決も同じ。)のabc順に目標単語の候補を探す,結果が一つだけあった場合は,その行を目標単語と見なし,この行にあったすべての情報を得る。子音転記の検索結果が二つ以上あった場合は,さらに個々候補の母音音素までを照合する。もしくは,前後の候補の対訳語と単語の綴り字までを参照しながら,目標単語を確定する。」