京都記者クラブ事件・地方公共団体がその庁舎内に設置した新聞記者室の性質と無償供与の適法性
損害賠償請求事件
【事件番号】 京都地方裁判所判決/平成2年(行ウ)第10号
【判決日付】 平成4年2月10日
【判示事項】 地方公共団体がその庁舎内に設置した新聞記者室の性質と無償供与の適法性
【参照条文】 地方自治法238
地方自治法238の4
憲法21
【掲載誌】 判例タイムズ781号153頁
地方自治法
(公有財産の範囲及び分類)
第二百三十八条 この法律において「公有財産」とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
一 不動産
二 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
三 前二号に掲げる不動産及び動産の従物
四 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
五 特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これらに準ずる権利
六 株式、社債(特別の法律により設立された法人の発行する債券に表示されるべき権利を含み、短期社債等を除く。)、地方債及び国債その他これらに準ずる権利
七 出資による権利
八 財産の信託の受益権
2 前項第六号の「短期社債等」とは、次に掲げるものをいう。
一 社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第六十六条第一号に規定する短期社債
二 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第百三十九条の十二第一項に規定する短期投資法人債
三 信用金庫法(昭和二十六年法律第二百三十八号)第五十四条の四第一項に規定する短期債
四 保険業法(平成七年法律第百五号)第六十一条の十第一項に規定する短期社債
五 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第八項に規定する特定短期社債
六 農林中央金庫法(平成十三年法律第九十三号)第六十二条の二第一項に規定する短期農林債
3 公有財産は、これを行政財産と普通財産とに分類する。
4 行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう。
(行政財産の管理及び処分)
第二百三十八条の四 行政財産は、次項から第四項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。
2 行政財産は、次に掲げる場合には、その用途又は目的を妨げない限度において、貸し付け、又は私権を設定することができる。
一 当該普通地方公共団体以外の者が行政財産である土地の上に政令で定める堅固な建物その他の土地に定着する工作物であつて当該行政財産である土地の供用の目的を効果的に達成することに資すると認められるものを所有し、又は所有しようとする場合(当該普通地方公共団体と一棟の建物を区分して所有する場合を除く。)において、その者(当該行政財産を管理する普通地方公共団体が当該行政財産の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る。)に当該土地を貸し付けるとき。
二 普通地方公共団体が国、他の地方公共団体又は政令で定める法人と行政財産である土地の上に一棟の建物を区分して所有するためその者に当該土地を貸し付ける場合
三 普通地方公共団体が行政財産である土地及びその隣接地の上に当該普通地方公共団体以外の者と一棟の建物を区分して所有するためその者(当該建物のうち行政財産である部分を管理する普通地方公共団体が当該行政財産の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る。)に当該土地を貸し付ける場合
四 行政財産のうち庁舎その他の建物及びその附帯施設並びにこれらの敷地(以下この号において「庁舎等」という。)についてその床面積又は敷地に余裕がある場合として政令で定める場合において、当該普通地方公共団体以外の者(当該庁舎等を管理する普通地方公共団体が当該庁舎等の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る。)に当該余裕がある部分を貸し付けるとき(前三号に掲げる場合に該当する場合を除く。)。
五 行政財産である土地を国、他の地方公共団体又は政令で定める法人の経営する鉄道、道路その他政令で定める施設の用に供する場合において、その者のために当該土地に地上権を設定するとき。
六 行政財産である土地を国、他の地方公共団体又は政令で定める法人の使用する電線路その他政令で定める施設の用に供する場合において、その者のために当該土地に地役権を設定するとき。
3 前項第二号に掲げる場合において、当該行政財産である土地の貸付けを受けた者が当該土地の上に所有する一棟の建物の一部(以下この項及び次項において「特定施設」という。)を当該普通地方公共団体以外の者に譲渡しようとするときは、当該特定施設を譲り受けようとする者(当該行政財産を管理する普通地方公共団体が当該行政財産の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る。)に当該土地を貸し付けることができる。
4 前項の規定は、同項(この項において準用する場合を含む。)の規定により行政財産である土地の貸付けを受けた者が当該特定施設を譲渡しようとする場合について準用する。
5 前三項の場合においては、次条第四項及び第五項の規定を準用する。
6 第一項の規定に違反する行為は、これを無効とする。
7 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
8 前項の規定による許可を受けてする行政財産の使用については、借地借家法(平成三年法律第九十号)の規定は、これを適用しない。
9 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
主 文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 被告は、京都府に対し、金八五九万五、〇五〇円及び平成二年四月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第一項に限り仮執行宣言。
二 被告
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
一 原告(請求原因)
(一) 原告は、京都府の住民であり、被告は、京都府の知事である。
(二) 京都府は、庁舎内に記者室を設置し、これを報道機関の記者の利用に供している。
(三) 右記者室の供用は、行政財産の目的外使用として地方自治法(以下「法」という)二三八条の四の制限に違反している。
(四) 被告は、京都府を代表して、右記者室を便宜供与していることによって、京都府政記者会(以下「記者クラブ」という)ないし同クラブ加盟各社が支払うべき次の金額につき、何ら理由がないのに、違法に公金の支出を行った。
(1) 昭和六三年度の電話代等
イ 直通電話代 八万八、九一人円
ロ ファクシミリ代 一〇万八、一〇七円
ハ NHK受信料 一万一、七〇〇円
計金二〇万八、七三五円
(2) 平成元年度(四月~一一月)の電話代等
イ 直通電話代 五万八、八九一円
ロ ファクシミリ代 八万七、四六三円
ハ NHK受信料 一万二、二〇〇円
計金一五万八、五五四円
(3) 記者室専属の女子職員の平成元年二月から平成二年一月までの給料合計金四〇三万五、三六一円
(五) 被告は、京都府を代表して、記者室(面積一〇四・八一)を無償で供与しており、本来徴収すべき昭和六三年一月から平成元年一一月までの二○か月分の賃料相当損害金四一九万二、四〇〇円を徴収せずに財産管理を怠ったものである。
(六) 原告は、平成二年一月二九日付で、右公金支出及び怠る事実は違法であるとして、京都府監査委員に監査請求したが、同委員は、同年三月一四日付で、右監査請求には理由がないと通知した。
(七) よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項に基づき、京都府に代位して、被告が京都府に対し、違法な公金支出及び怠る事実によって京都府に与えた損害金八五九万五、〇五〇円及び訴状送達の翌日である平成二年四月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。
二 被告(認否・主張)
1 認否
(一) 請求原因(一)、(二)、(六)の各事実をいずれも認める。
(二) 同(三)を争う。
(三) 同(四)の(1)、(2)の事実を認め、(3)の事実を否認し、その余を争う。
(四) 同(五)の事実のうち、京都府が記者室を無償で供与していることを認め、その余を争う。
2 被告の主張
(一) 法二三八条の四第四項は、地方自治体が行政財産をその本来の用途または目的を妨げない限度においてその目的外使用として、地方自治体以外の者に使用させるものであるが、記者室の供用は、後記(二)のとおり、行政財産を京都府自体の公用に供するものであって、同条項の目的外使用には当らない。京都府では、昭和三九年九月三日付企画管理部長依命通達(以下「通達」という)によって、その旨を定めている。
(二) 即ち、京都府は、府民の知る権利を保障するため、府の施策や行事などの公共的情報を迅速かつ広範に府民に周知させる広報活動の一環として、庁舎内に記者室を設置し、報道機関の記者が常時取材の場として利用できるようにしている。記者室は、京都府自身の事務または事業の遂行のためこれにその施設を供するものであるから、通達2の基準に照らし、行政財産である土地建物を第三者に使用させることによる目的外使用には該当しない。なお、国も、昭和三三年一月七日付大蔵省管財局長通達によって、新聞記者室を国の事務、事業の遂行のため、国が当該施設を提供するものであるから、使用又は収益とみなさず、許可を要する場合に該当しないという取扱をしている。したがって、法二三八条の四第四項の適用はなく、京都府が記者室の使用料を徴収していないことにより、財産管理を怠っていることにはならない。
(三) 電話、ファクシミリ、テレビ受像機は、記者室の設置に伴い、必要最小限の付属設備として配置されたものであって、その使用に伴う費用を京都府が負担するのは、当然のことであり、違法な公金支出にはならない。
(四) 京都府は、記者室に企画管理部広報課に所属する女子職員一名を配置し、報道機関との連絡、新聞記事の記録及び整理、報道用資料の整理など京都府の事務を担当させているのであって、同人が京都府から給与の支給を受けるのは当然である。
三 原告(被告の主張に対する認否、反論)
1 被告の主張に対する認否
被告の主張をすべて争う。