免職された市立学校図書館事務員のした地位保全等の仮処分申請が、行政事件訴訟法44条により許されな | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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免職された市立学校図書館事務員のした地位保全等の仮処分申請が、行政事件訴訟法44条により許されないとされた事例

 

 

              地位保全等仮処分申請控訴事件

【事件番号】      福岡高等裁判所判決/昭和51年(ネ)第294号

【判決日付】      昭和55年3月28日

【判示事項】     1、免職された市立学校図書館事務員のした地位保全等の仮処分申請が、行政事件訴訟法44条により許されないとされた事例

             2、地方公共団体は、私法上の雇用契約を締結することができるか

【判決要旨】      1、省略

             2、地方公共団体は、私法上の雇用契約を締結することができない。

【掲載誌】        行政事件裁判例集31巻3号802頁

             判例時報974号130頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト88号86頁

 

 

行政事件訴訟法

(仮処分の排除)

第四十四条 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。

 

 

 

       主   文

 

一 本件控訴を棄却する。

二 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

       事   実

 

一 控訴人らは、「原判決を取り消す。控訴人らがいずれも被控訴人の職員たる地位を有することを仮に定める。被控訴人は控訴人らに対し昭和四七年一月一一日以降毎月二○日限り各金六万円を仮に支払え。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二 当事者の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人ら)

(一) 被控訴人の本案前の抗弁について

  控訴人ら三名は、常勤の学校図書館事務員として期限の定めなく採用されたものである。すなわち、控訴人ら三名は、別紙(一)記載の昭和三八年七月一七日付確認書(以下七月一七日付確認書という)を前提に、年令故に採用形式を嘱託ということで、その採用条件を明らかにする別紙(二)記載の昭和三八年一○月四日付確認書(以下一○月四日付確認書という)が結ばれて採用されたものであり、従つてこの一○月四日付確認書は控訴人らと被控訴人との間の契約ということになり、その合意内容を明確にした右確認書どおりの効果が発生するのである。そして、一○月四日付確認書による合意は私法関係、すなわち私法上の合意であり、従つて控訴人らと被控訴人との間の関係も私法関係にあるというべきであり、かかる合意は必要な物資の購入契約と同様に地方自治体がその職責を果していくうえで適法に締結することができるものである。よつて、被控訴人の本案前の抗弁は理由がない。

 (二) 本案について

  (1) 右のとおり控訴人らと被控訴人との関係は私法関係にあるのであるから、引用にかかる控訴人の申請の理由をその意味におきかえて本件仮処分の申請に及ぶ。

  (2) 被控訴人が控訴人らに「非常勤嘱託」であるという根拠は、辞令と退職金の取扱いが他の図書司書と異つていたというだけであり、控訴人らの主張は控訴人らと一般職との間にはこのような違いはあつても実質的には一般職と同じであるから、一般職と同じ取扱いをせよというのである。控訴人らは一般職と全く同じ取扱いを受けていたと主張しているのではない。辞令と退職金については一般職と取扱いの差があつた。しかしながら北九州市のいわゆる「非常勤嘱託」の人達との間にも明らかに取扱いの差があり、嘱託になるまでの経過、前記各確認書、業務の性質、労働条件等において明確な差があつたのである。かように控訴人らと一般職との間にも取扱いの差はあるが、明らかに非常勤嘱託とは異つているから、実質的には一般職であり、少くとも一般職と同じように取扱うべきであるというのである。そして一○月四日付確認書の第二項にいう「なお、嘱託期間については、一般職員の例による」の意は、右確認書の作成された経過及びこの文書からすれば、北九州市の一般的職員すなわち一般職によるということであり、定年はないということである。このことは、『和三八年一二月二一日に、被控訴人と市職労との間において結ばれた「臨時的任用職員の取扱」に関する確認書において「(イ)アの年令を超え五九歳までの者は、別途選考を行ない適格者は一般嘱託の例により期間を付して嘱託とする。ただし、期間満了の場合は、その時点でその後の措置について組合と協議する。」旨の記載があるのとの相違からみても明らかである。

(被控訴人)

(一) 本案前の抗弁として

  控訴人らの本件仮処分の請求は、その内容からして行政事件訴訟法第四四条の趣旨に鑑み許されず、違法として却下さるべきである。

  まず、公務員の任用は公法上の行為であり、期限付公務員の地位は再任用されない限り任用期間の満了によつて当然終了するものであるところ、控訴人らの求める本件仮処分は行政庁に代つて再任用という行政処分を仮にすべきことを求めるものに外ならず、かかる行政庁に代つて行政処分を行い、新たな法律関係を形成することとなるような仮処分は、行政事件訴訟法第四四条に鑑み許されないというべきである。

  また、仮に、控訴人ら主張のように、控訴人らの公務員としての任用が任期の定めのないものであり、控訴人らの任期満了による公務員としての地位の喪失が解雇に相当するとの立場に立つても、この解雇は免職という行政処分で右法条にいう行政庁の処分に当たる行為であり、本件仮処分請求の本案をなすべき訴訟が期限付任用行為の付款たる期限部分の不存在ないし無効を前提として現在の法律関係たる地位の確認等を求める公法上の当事者訴訟であるとしても、かかる行為を阻害する仮処分は右法条の趣旨に鑑み許されないものというべきである。

  この点に関する控訴人らの反論は争う、一○月四日付確認書はその文面からも明らかなとおり控訴人らは合意の当事者としての地位を有せず、控訴人らと被控訴人との間の合意ということはできない。またかかる確認書の内容が直ちに労働契約の内容となるものとはいえず、ましてや任用による職員の勤務条件を規制するものということもできない。

(二) 本案についての控訴人らの主張について

  控訴人らと被控訴人の関係が私法関係であることを前提とする控訴人らの主張については、その前提は前記のとおりであり、その余は争う。

(証拠関係)(省略)

 

       理   由

 

一 まず、被控訴人の本案前の抗弁について判断する。

(一) 控訴人らの本件仮処分の申請は、

  まず、第一に「控訴人らは被控訴人に学校図書館事務員として任用されていたが、被控訴人から昭和四六年一二月二八日控訴人らを同四七年一月一○日限り免職する旨の意思表示を受けた。しかし、この免職の意思表示は無効であるから、控訴人らは未だその地位にある。そこで控訴人らが被控訴人の職員たる地位を有することを仮に認める旨の仮処分を求める」というのであるから、結局右免職の意思表示の効力を一時停止することを求めることに帰着する。ところで行政事件訴訟法第四四条は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事訴訟法に規定する仮処分をすることはできない。」と規定し、右免職の意思表示は右にいう行政庁の処分に当たると解されるから、かかる内容の仮処分は右法条からして許されないものといわなければならない。

  また、一面、控訴人らが被控訴人の職員たる地位を仮に定めることは、裁判所が行政行為を新たにすることを意味し、右法条はかかる法律状態の形成をなす仮処分も排除する趣旨と解されるから、この点からしてもかかる内容の仮処分は許されないといわなければならない。

(二) 第二に、控訴人らは、控訴人らと被控訴人との間が私法関係で嫡るとし、それを前提において右第一の理由をもつて控訴人らが被控訴人の職員たる地位を有することを仮に定める旨の仮処分を求める、之いうのである。しかし一般に地方公共団体が私法上の雇傭契約を締結することはできない、つまりそれは禁止されていると解され、このことは明文の規定はないが、その旨を規定する国家公務員法第二条第六項の趣旨は地方公務員法にも妥当すると解されることからしても明らかである。そして、一○月四日付確認書の性格が如何なるものであるかは別として、たとえそれが私法上の合意だとしてもそのことから直ちに控訴人らの採用が私法上のものであるとは解されないし、その他右禁止に反して控訴人らと被控訴人との間が私法上の雇傭契約の関係にあつたことを認め得る疏明もないから、そのことを前提とする本件仮処分の申請が適法だということにはならない。

(三) 第三に、控訴人らの金員支払を求める仮処分の申請であるが、この部分は控訴人らが被控訴人の職員たる地位を有することを仮に定められることが前提であるところ、その前提の認められないことが前説示のとおりであり、しかも前記免職処分が無効であることを前提とするものであるから、このような仮処分はその実質において給与請求権の消滅という免職処分の効果の一部を停止することになるから、行政事件訴訟法第四四条に抵触し許されないものといわなけれ ならない。以上のとおりで、本件仮処分の申請は本案の審理に進むまでもなく、不適法として却下を免れない。

二 以上のとおりで、控訴人らの本件仮処分申請は理由がなく失当としてこれを却下すべきであり、理由は異るがこれを却下した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することにし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。