「類似する標章」の使用および「類似する標章」を付した印刷物の販売頒布の禁止を求める訴の適否
商標使用禁止及損害賠償請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/昭和32年(ワ)第5278号
【判決日付】 昭和36年3月2日
【判示事項】 1、「類似する標章」の使用および「類似する標章」を付した印刷物の販売頒布の禁止を求める訴の適否
2、印刷物等を指定商品として登録した商標を物品販売のための宣伝用印刷物に使用することと商標権侵害の成否
【参照条文】 商標法2
商標法37
【掲載誌】 下級裁判所民事裁判例集12巻3号410頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト14号12頁
ジュリスト318号107頁
商標法
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。
5 この法律で「登録商標」とは、商標登録を受けている商標をいう。
6 この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。
7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
第二章 商標登録及び商標登録出願
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標
三 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)
イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの
四 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標
五 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
六 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
九 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
十三 削除
十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
2 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第六号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
3 第一項第八号、第十号、第十五号、第十七号又は第十九号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
(侵害とみなす行為)
第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
六 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
七 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
八 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
主 文
原告の請求のうち「類似する標章」の使用及び「類似する標章」を附した印刷物の販売、頒布の禁止を求める部分は却下する。
原告のその余の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
原告訴訟代理人は、被告は、「趣味の会」、□、□「しゆみ」、及びこれらに類似する標章を使用し、または右の各標章及びこれに類似する標章を附した印刷物の販売、頒布をしてはならない。被告は原告に対して金三〇万円及びこれに対する昭和三二年八月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、原告は、昭和二九年一月二三日に設立され、全国銘菓、名物、民芸品、陶器、漆器、色紙、版画、写真等の製造販売等を目的とする会社で、次の方法によつてその販売を行つている。
(1) 販売商品を、第一部全国銘菓、名物の部、第二部郷土人形百態の部、第三部趣味の器の部、第四部色紙と版画の部、第五部おくに名物の部、第六部こけし人形の部、第七部郷土玩具の部の七部に分類している。
(2) 原告から物品を購入しようとする者は、前記第一乃至七部のうちの購入しようとする物品の属する部の会員となる。したがつて異る部に属する物品を購入しようとするものは、その物品の属する各部についてそれぞれ会員となる。原告は、会員に対して解約の申入がない限り、継続して毎月各部毎に一個宛商品を配布販売する。
(3) 原告は、その会員の募集、販売商品の配布、販売代金の集金等の事務を委任する者を各地に置き、これを支部と称している。
二、原告の商品販売方法は右のようなものであり、現在原告の支部は全国各都道府県に三〇数個所あつて、会員数は、約七万名(東京都内約二万五千名)(この会員数は、一人で二つ以上の部の会員となつている者であるから会員となつている者の人員とは一致しない。)あり、なお増加しつつある。
三、原告は、設立以来販売商品の宣伝、販権の拡大の目的で会員または一般人に対して「趣味の会」□、趣味の会、□等の標章を印刷したちらし、パンフレツト等を商品と共に配布して商品の説明、宣伝をし、また、有名人の随筆等を記載した月刊パンフレツト「月刊趣味の会」を出版してきたのであるが、その販売する印刷物等(指定商品第六六類(旧商標法施行規則第一五条による))について次のとおり商標の登録を受けた。
(1) 趣味の会、出願昭和三一年四月二一日、登録昭和三一年一二月一九日、登録番号第四九三六六一号、指定商品第六六類図画、写真及び印刷物類、書籍、新聞紙、雑誌、アルバム等の右商標の連合商標として、
(2) □出願昭和三一年六月八日、登録昭和三二年三月三〇日登録番号第四九八九一七号、指定商品第六六類。
(3) □出願昭和三一年六月一四日、登録昭和三二年三月三〇日登録番号第四九八九一八号、指定商品第六六類。
(4) 趣味の会出願昭和三一年六月一四日、登録昭和三二年三月三〇日、登録番号第四九八九一九号、指定商品第六六類。
四、被告は静岡、愛知、岐阜の各県を中心として、原告と同様の目的、方法で営業を営むものであるが、原告が前記の各商標について商標権を有し、前記のとおりその販売、頒布する印刷物等にこれを使用していることを知りながら、昭和三一年末から原告と全く同様の目的、方法で□、□なる標章を印刷したちらし、パンフレツト等を被告の会員、一般人のみならず原告の会員にまで配布し、更に原告の発行する「月刊趣味の会」と全く同様の編集方法により「月刊しゆみ」なる標章を印刷した月刊パンフレツトを出版し、原告の商標権を侵害している。
五、原告は、全国各市に支部を設置するため、昭和三二年一月から全国的に支部希望者を募集し、同年三月三一日号週刊朝日をはじめ三大週刊誌、読売新聞、その他の日刊紙等に広告費一五〇万円を投じて、募集広告を掲載し、同年三月より六月にわたつて各商工会議所に支部希望者の推薦を依頼したが、愛知、静岡、岐阜の各県下においては、既に被告が原告と同様の名称を用いその販売、頒布する商品、印刷物に前記のとおり原告の商標に類似する標章を附し、同様の営業を行つていたため、右三県下の後記の各市においては、原告がした広告の効果がなく、また、商工会議所も被告の支部を原告のそれと誤認し、支部希望者の推薦をしないので、原告は、その支部を設置することができないでいる。
六、原告は、支部を設置することができなかつたために次のとおりの損害を蒙つた。
(1) 原告が昭和三二年四月から前記のとおりの方法で支部を設置しようとした前記三県下の市は次のとおりである。
(イ) 岐阜県人口一〇万以上岐阜市、人口十万以下高山、多治見、関、土岐、美濃市、
(ロ) 静岡県人口一〇万以上、静岡、浜松、沼津、清水市、人口一〇万以下焼津、吉原、藤枝、三島、磐田、島田、伊東市
(ハ) 愛知県人口一〇万以上、岡崎、一宮市、人口一〇万以下半田、瀬戸、豊川、蒲郡、安城、春日井、刈谷、津島市
(2) 支部が設置された当初月は一支部について、人口一〇万以下の市は少くとも一〇〇名、人口一〇万以上の市は少くとも五〇〇名の会員が得られ、その後一月経過する毎に、その会員は増加して、少くとも次のとおりの会員数となる。
人口一〇万以下の市 人口一〇万以上の市
設置後二月目 二〇〇名 一、〇〇〇名
同 三月目 三五〇名 一、六〇〇名
同 四月目 五〇〇名 二、五〇〇名
支部設置数は月平均最低五支部は可能であるので、昭和三二年四月に設置を開始したとすると、同年七月までに設置できたはずの支部数、およびこれによつて得られる延会員数は次のとおりとなる。
(イ) 四月二一日から同月末日までの間に設置できたはずの支部、人口一〇万以上の市に一支部、会員数は前記の割合によると、少くとも四月五〇〇名、五月一、〇〇〇名、六月一、六〇〇名、七月二、五〇〇名となり、七月までのその累計(延会員数)は五、六〇〇名となる。
(ロ) 五月中に設置できたはずの支部、人口一〇万以上の市に一支部、人口一〇万以下の市に四支部、七月までの会員数の累計は前記の割合によると、少くとも五、七〇〇名となる。
(ハ) 六月中に設置できたはずの支部、人口一〇万以上の市に一支部、人口一〇万以下の市に四支部、七月までの会員数の累計は二、七〇〇名となる。
(ニ) 七月一日から同月七日までに設置できたはずの支部、人口一〇万以下の市に二支部、七月中の会員数の累計は二〇〇名となる。
すなわち四月二一日から七月七日までの間に人口一〇万以上の市三箇所、一〇万以下の市一〇箇所合計一三支部が設置され累計一四、二〇〇名の延会員が得られ、回数の配布品の販売ができたはずである。
(3) 各部の配布品の平均価格は一箇について一五〇円となり、諸経費を控除した平均純利益は、販売価格の百分の二十であるから、右の販売によつて得らるべき純利益は四二万六千円となる。すなわち、原告は昭和三二年四月二一日から同年七月七日までの間に、愛知、静岡、岐阜の三県に設置できたはずの支部による、商品の販売によつて得られたはずの利益は四二万六千円を、失つたことになる。
七、原告は、被告が前記のとおり原告が商標権を有する商標に類似する商標を使用していたので、被告に対しその使用の停止を要求し、その交渉のため次のとおりの費用を支出した。
(1) 昭和三一年一〇月一日から三日までの間に要した費用(イ)神田東京駅間往復自動車賃三〇〇円、(ロ)名古屋市内における自動車賃六回分一、〇五〇円、(ハ)車中食事代、電報料等二、二〇〇円、(ニ)名古屋駅入場料三名分三〇円、(ホ)香取旅館宿泊料八、八五二円、(ヘ)女中心附三四八円、(ト)東京、名古屋間特二急行往復料金二名分一一、九二〇円計二四、七〇〇円
(2) 昭和三二年五月五日から一二日までに要した費用、(イ)東京、名古屋間特二往復料金五、九六〇円、(ロ)食事代外雑費三、五〇〇円、(ハ)名古屋市内における自動車賃一、九〇〇円、(ニ)湯の元、香取旅館宿泊料二、四三八円計一三、七九八円、
すなわち、被告が原告の商標権の侵害をしたので、その停止を求めるため、原告は右の費用合計三八、四九八円を費しこれと同額の損害を蒙つた。
八、よつて原告は被告に対して、前記のとおりの原告の商標権にもとずいて、その侵害の排除、予防のため、被告に対して、その使用している原告の商標に類似した前記の各標章およびこれに類似した標章の使用の禁止を求めるとともに、商標権を侵害されたことによつて蒙つた損害の賠償として、前記七の三八、四九八円と、前記六のうち二六一、三〇二円との合計三〇万円およびこれに対する右損害発生の後である本訴状送達の日の翌日である昭和三二年八月一四日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
九、予備的請求原因として、仮に、被告が前記四のとおり趣味の会その他の標章を使用していることが、原告の商標権を侵害するものではないとしても、原告は設立当初の昭和二九年一月頃から、その標章として「趣味の会」なる標章を使用し、その後その商標登録、および前記のとおりの連合商標の登録を受け、これを全国的に継続して使用し、原告の商標として広く認識されている。そして、被告が前記四のとおり趣味の会その他の標章を使用している方法は、原告の各商標の使用方法を模倣したものであつて、一般の第三者をして、その営業が原告の営業であるとの誤認を容易に生ぜしめるものである。よつて原告は不正競争防止法第一条第一号によつて、被告に対して前記八と同様に、標章使用の禁止、を求めるとともに、同法第一条の二によつて被告の行為によつて原告が蒙つた損害の賠償を求める。
被告の答弁に対する再答弁として
(一) 被告が、原告が主張する標章を附して配付しているパンフレツトは、交換価値のないものではない。それらのパンフレツトは、殆んどが会費を納めている被告の会員に配付されているのであるから、広義の対価を得て配付しているものであり、したがつて商品である。
(二) 被告の行為が原告の商標権を侵害するものであるかどうかを判断するについては、商標法の基本理念である不正競争の防止という観点からなされなければならない。被告の「趣味の会」なる標章の使用方法は、全く原告の商標使用方法を模倣したものであつて、明らかに不正競争行為であるから、原告の商標権を侵害する行為である。
(三) 被告が主張する「趣味の会」なる標章が被告の標章として周知のものとなつていたとの事実は否認する。仮に、被告が原告の商標出願前より右標章を使用していたとしても、右標章が被告の標章であることを知つていたのは、被告の住所附近の被告と取引関係のあるものに限られていたのであつて、取引者、需要者間において周知となつていたとはいえないと述べ、
立証として、甲第一号証の一、二、同第二号証の一乃至三、同第三号証の一、二、同第四号証の一乃至四、同第五号証の一、二、同第六号証の一乃至四、同第七号証の一乃至五、同第八号証の一乃至三、同第九号証、同第一〇号証の一乃至三、同第一一号証の一乃至六、同第一二号証、同第一三号証の一乃至四を提出し、同第二乃至五号証はいずれも原告が、同第六乃至一〇号証はいずれも被告が作成したものであると述べ、証人高橋昭郎の証言及び原告代表者高桑誓治の本人尋問の結果を援用し、乙第四、五号証の各一乃至三の成立を認め、その余の同号各証はいずれも不知と述べた。
被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、原告の請求のうち「類似する標章」の使用禁止を求める部分は却下するとの判決を求め、その理由として、単に「類似する標章」というのでは具体的に如何なる標章について使用禁止を求めるかを特定することができないから右請求は不特定であると述べ、
本案につき、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、
原告主張の請求原因一、二、三は不知。同四のうち被告が静岡、愛知、岐阜の三県に亘つて「趣味の会」と印刷したちらし、パンフレツト等を被告の会員に配布し、また、「月刊しゆみ」を出版していることは認める。その余は不知。同五乃至九は否認する。
(一) 商標権者は、指定商品についてのみ登録商標の使用をする権利を専有するものであつて、指定商品以外については商標使用権を専有しないのであるから、仮に原告がその主張の如き商標権を有するとしても原告の請求のうち、被告に対して標章使用の禁止を求める商品を特定しないで、一般的に標章の使用禁止を求める部分は理由がない。
(二) 「しゆみ」という標章は、「趣味の会」という商標と外観、呼称、その表示する観念が全く異るものであつて、類似していないから、仮に、原告が「趣味の会」について商標権を有するとしても、「しゆみ」という標章について使用禁止を求めることはできない。
(三) 仮に、原告がその主張の如き商標権を有するとしても、商標権者が登録商標の使用をする権利を専有するのは、特定の種類の商品についてであり、商品とは交換価値のあるものである。しかるに、被告が配付している印刷物は、所謂ちらしといわれるもので、無料で配付するものであつて、交換価値のないものである。すなわち、被告が配付している印刷物は商品ではないのであるから原告の商標権の効力はこれには及ばない。
(四) 仮に、原告がその主張の如き商標権を有するとしても、原告がその主張の三県に支部を設置することができるかどうかということと被告がその配布する印刷物に原告主張の如き標章を使用していることは因果関係がない。したがつて、仮に、原告がその主張の如き市に支部を設置することができなかつたとしても、そのことについて被告が損害を賠償すべき理由はない。
(四) 「趣味の会」なる標章は、昭和二六年三月京都において全国銘菓名物趣味鑑賞会、別名趣味の会発足以来使用宣伝されたのみでなく、被告代表者である内藤重夫は、原告主張の商標登録出願日(昭和三一年四月二一日)以前である昭和二九年九月以来個人で「趣味の会」なる標章をパンフレツト等に善意で使用し、その宣伝周知に努めた結果、右昭和三一年四月二一日には既に同人の標章として周知となつていた。被告は、昭和三一年五月一日に設立され、内藤重夫が個人で行つていた営業を同人が使用していた「趣味の会」なる標章と共に承継したものである。したがつて、仮に原告がその主張の如き商標権を有するとしても、被告は、商標法第三二条によつて「趣味の会」なる商標を使用する権利を有すると述べ、立証として、
乙第一号証、同第二号証の一乃至三、同第三号証、同第四、第五号証の各一乃至三、同第六号証の一乃至六、同第七号証、同第八号証、同第九号証の一乃至二一を提出し、証人江崎寛友の証言及び被告代表者内藤重夫の本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一、二、同第六号証の一乃至四、同第七号証の一乃至五、同第八号証の一乃至三、同第九号証、同第一〇号証の一乃至三、同第一二号証、同第一三号証の一乃至四はいずれも成立を認め、その余の同号各証はいずれも不知と述べた。