平成8年改正前の優生保護法の優生条項に基づき強制不妊手術をされたことを理由とする国に対する国家賠 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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平成8年改正前の優生保護法の優生条項に基づき強制不妊手術をされたことを理由とする国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権に対する民法(平成29年改正前)724条後段の除斥期間の適用の可否


国家賠償請求控訴事件
【事件番号】    東京高等裁判所判決/令和2年(ネ)第2936号
【判決日付】    令和4年3月11日
【判示事項】    平成8年法律第105号による改正前の優生保護法の優生条項に基づき強制不妊手術をされたことを理由とする国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権に対する民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の適用の可否
【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載


1 事案の概要
  本件は、平成8年法律第105号による改正前の優生保護法(以下「旧優生保護法」という。)に基づいて強制不妊手術である優生手術を受けさせられたと主張する控訴人が、被控訴人に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めるとともに、社会的評価を回復させるための謝罪広告の掲載を求める事案である。
  一審の東京地判令2.6.30判例秘書L07530906は、控訴人に施された優生手術は対象疾患に罹患しているとの誤った判断に基づくもので違法であったとして、控訴人に損害賠償請求権の発生を認めたものの、除斥期間の適用により、同損害賠償請求権は既に消滅したとして、控訴人の請求を棄却した。
  これに対して、控訴人は、控訴審において、(1)国賠法1条1項に基づく損害賠償請求権の請求原因として、ア 控訴人に対する優生手術の実施の違法性、イ 旧優生保護法の制定、優生政策の推進及び優生手術の実施を先行行為とする作為義務違反、ウ 特別の賠償立法に係る立法不作為を主張し、このうちアとイを主位的主張、ウを予備的主張とし、(2)謝罪広告の請求と併せて、これらを主位的請求とし、また、(1)の損害賠償請求が認容されることを解除条件として、被控訴人が控訴人に適切な補償を受けさせないことは違法であることの確認を求める旨の訴えを予備的に追加した。
  控訴審における争点は、本件優生手術の違憲性・違法性及び民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下特記する場合を除き同じ。)724条後段の規定の適用関係(争点1)、優生保護法の制定、優生政策の推進及び本件優生手術の実施を先行行為とする作為義務違反の有無(争点2)、特別の賠償立法に係る立法義務違反の有無(争点3)、控訴人の被った損害額(争点4)、謝罪広告の必要性(争点5)、違法確認の訴えの予備的追加の当否(争点6)であり、このうち、最大の争点は、争点1に関する除斥期間の適用の可否であった。

2 本判決の判断
  本判決は、争点1について、一審が優生保護法の違憲性について判断しなかったのに対し、旧優生保護法の優生条項(旧優生保護法の目的(1条)並びに4条による優生手術及び12条による優生手術に係る規定をいう。)は、憲法13条及び14条1項に違反することは明らかであると判示し、優生条項に基づいて本件優生手術を受けたと認められる控訴人に対し、被控訴人は、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うと判示した。
  そして、最大の争点である、除斥期間の適用の可否について、民法724条後段の除斥期間の起算点は、加害行為時である本件優生手術時(昭和32年2月又は3月頃)であるとし、控訴人による本件訴訟提起の時点では、上記起算点から既に20年が経過していたことになるとしつつも、被害者による権利行使を民法724条後段規定の期間の経過によって排斥することが著しく正義・公平の理念に反するような特段の事情がある場合には、条理上、その効果を制限するべきであるとして、本件において、かかる特段の事情を認定した上で、控訴人が、自己の受けた被害が被控訴人による不法行為であることを客観的に認識し得た時から相当期間が経過するまで(一時金支給法の施行日である平成31年4月24日から5年間が経過するまで)は、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当であると判示した。
  また、争点4については、控訴人に対する慰謝料としては1500万円(請求額は3000万円)が相当であると判断し、争点5については、本件においては、本判決において控訴人の受けた優生手術が違法であると判断されたことや、相当額の慰謝料が認容されたことを踏まえ、謝罪広告の掲載の必要性までは認められないとしてこれを排斥した。