職務質問に附随して行う所持品検査の許容限度 覚せい剤取締法違反、有印公文書偽造、同行使、道路 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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職務質問に附随して行う所持品検査の許容限度

 

 

覚せい剤取締法違反、有印公文書偽造、同行使、道路交通法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和51年(あ)第865号

【判決日付】      昭和53年9月7日

【判示事項】      1、職務質問に附随して行う所持品検査の許容限度

             2、職務質問に附随して行う所持品検査において許容される限度を超えた行為と認められた事例

             3、押収等の手続に違法のある証拠物とその証拠能力

             4、押収手続に違法のある証拠物について証拠能力が認められた事例

【判決要旨】      1 職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある。

             2 警察官が、覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚に認められる者に対して職務質問中、その者の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した行為(判文参照)は、職務質問に附随する所持品検査において許容される限度を超えた行為である。

             3 証拠物の押収等の手続に憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるべきである。

             4 職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況のもとで、必ずしも諾否の態度が明白ではなかつた者に対し、令状主義に関する諸規定を潜脱する意図なく、また、他に強制等を加えることなく行われた本件所持品検査(判文参照)において、警察官が所持品検査として許容される限度をわずかに超え、その者の承諾なくその上衣左側内ポケツトに手を差し入れて取り出し押収した点に違法があるに過ぎない本件証拠物の証拠能力は、これを肯定すべきである。

【参照条文】      憲法35

             警察官職務執行法2-1

             憲法31

             刑事訴訟法

             刑事訴訟法218-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集32巻6号1672頁

 

 

憲法

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 

 

警察官職務執行法

(質問)

第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。

3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

 

 

刑事訴訟法

第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

 

第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

② 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。

③ 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。

④ 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。

⑤ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。

⑥ 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。