所得税法59条1項1号の規定の趣旨(原審判決引用)
課税処分取消請求控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成13年(行コ)第99号
【判決日付】 平成13年8月8日
【判示事項】 (1) 所得税法59条1項1号の規定の趣旨(原審判決引用)
(2) 所得税法59条1項1号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)は、限定承認の場合において相続財産が相続債務を超えることが判明した場合に超過分の財産についても課税されることになり、単純承認した場合よりも限定承認をしたために課税額が増加するなど、相続人に不利益を生じさせているから、相続財産が相続債務を超える場合に、相続人に不利益を生じさせるときには、同規定を適用するべきではないとの納税者の主張が、民法は、相続人によって得た財産の限度でのみ責任を負えば足り、残債務を自己の固有財産で弁済する必要がないこととするために限定承認制度を設けたものであるところ、所得税法59条1項1号が適用されることによって、相続人は相続により取得した財産の範囲内で、みなし譲渡所得課税により課税された所得税を含めた相続債務を弁済する義務を負うにすぎないこととなり、相続財産が相続債務を超えるか否かにかかわらず、限定承認をした相続人が相続財産の限度を超えて負担することはなくなるのであるから、同規定が民法の趣旨に反して相続人に不利益を課すものとまではいえないことは明らかであるとして排斥された事例(原審判決引用)
(3) 相続財産が相続債務を超えた場合に、単純承認に係る相続であるとして計算した相続人の相続税額と所得税額の合計額が、限定承認に係る相続であるとして所得税法59条1項1号を適用して計算した相続人の納付すべき相続税額と所得税額の合計額よりも低廉になる場合には、単純承認に係る相続であるとして課税すべきであるという納税者の主張がそのように解すべき根拠となる法令上の規定は存在せず、また、同規定を適用した結果、相続人が相続財産の限度額を超えて相続債務を負担することとならない限り、限定承認制度の趣旨に反するものとも解されないとして排斥された事例(原審判決引用)
(4) 民法921条3号は、相続人が限定承認した後でも,相続財産の全部又は一部を隠匿したとき、私に相続財産を消費したとき又は悪意で相続財産を財産目録中に記載しないときは、単純承認とみなすことを規定するが、右の趣旨は、右の各行為は、相続債権者等に対する背信的行為であって、そのような行為をした不誠実な相続人には限定承認の利益を与える必要はないとの趣旨に基づいて設けられたものと解されるとされた事例(原審判決引用)
(5) 納税者が行った限定承認は、相続債権者への催告もせず、また相続財産の一部を自己のために消費しているから「私にこれ消費し(民法921条3号)」ている場合に該当し、限定承認は成立せず単純承認したものとみなされることから、所得税法59条1項1号にもとづくみなし譲渡課税は違法であるとの納税者の主張が、催告の手続違反は限度承認自体の効力に影響を及ぼすものではなく、みだりに相続財産を消費したものではないから「私にこれを消費し」た場合に骸当しないなどとして排斥された事例(原審判決引用)
【判決要旨】 (1) 所得税法59条1項1号の規定は、限定承認制度が設けられた趣旨を尊重し、被相続人の所有期間中における資産の値上がり益を被相続人の所得として課税し、これに係る所得税額を被相続人の債務として清算するために、当該財産のうち、譲渡所得の基因となる資産については相続開始時点におけるその価額に相当する金額による譲渡があったものとみなして被相続人に対する譲渡所得課税を行うこととし、これにより、相続人は、右によって課税された所得税を含めた相続債務を弁済する義務を負うものの、相続財産が相続債務を超えるか否かにかかわらず、相続財産の限度を超えて被相続人の債務を負担することはないこととしている(国税通則法5条1項後段)。
(2)~(5) 省略
【掲載誌】 税務訴訟資料251号順号8957
所得税法
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
国税通則法
(相続による国税の納付義務の承継)
第五条1項 相続(包括遺贈を含む。以下同じ。)があつた場合には、相続人(包括受遺者を含む。以下同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百五十一条(相続財産法人の成立)の法人は、その被相続人(包括遺贈者を含む。以下同じ。)に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税(その滞納処分費を含む。次章、第三章第一節(国税の納付)、第六章(附帯税)、第七章第一節(国税の更正、決定等の期間制限)、第七章の二(国税の調査)及び第十一章(犯則事件の調査及び処分)を除き、以下同じ。)を納める義務を承継する。この場合において、相続人が限定承認をしたときは、その相続人は、相続によつて得た財産の限度においてのみその国税を納付する責めに任ずる。