会社の海外事業統括の業務担当取締役が、海外子会社等の業務を執行または監視するにあたり、その地位を | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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会社の海外事業統括の業務担当取締役が、海外子会社等の業務を執行または監視するにあたり、その地位を利用して会社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務を会社に対する善管注意義務または忠実義務として負っていたとした事例

 

 

              株式会社〈略〉株主代表訴訟事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第7586号

【判決日付】      令和3年11月25日

【判示事項】      1 会社の海外事業統括の業務担当取締役が、海外子会社等の業務を執行または監視するにあたり、その地位を利用して会社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務を会社に対する善管注意義務または忠実義務として負っていたとした事例

             2 自己の資産管理会社の利益を図ることを目的に、貸付先の返済能力を検討することなく、会社から当該海外子会社に対して別の使途で拠出された資金の一部を用いて、貸付けを行った行為は取締役としての善管注意義務または忠実義務に違反するとされた事例

             3 代表者であることを利用して、自己の個人的な利益を図る目的で小切手を振り出した行為は取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反するとされた事例

             4 会社の海外孫会社の取締役に指示をして、金融機関からの借入れにより自己の資産管理会社に生じた利息等相当額を当該海外孫会社に支払わせたことは取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反するとされた事例

             5 完全子会社が被った損害と完全親会社の損害

【判決要旨】      1 当該事案の事実関係の下では、会社の海外事業統括の業務担当取締役が、海外子会社等の業務を執行または監視するにあたり、その地位を利用して会社の利益の犠牲の下に自己の利益を図ってはならない義務を会社に対する善管注意義務または忠実義務として負っていた。

             2 自らが海外子会社の代表者であることを利用して、自己の資産管理会社の利益を図ることを目的に、貸付先の返済能力を検討することなく、会社から当該海外子会社に対して別の使途で拠出された資金の一部を用いて、貸付けを行った行為は、会社の取締役としての善管注意義務または忠実義務に違反する。

             3 自らが海外子会社の代表者であることを利用して、自己の個人的な利益を図る目的で小切手を振り出した行為は会社の取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する。

             4 会社の海外孫会社の取締役に対して指示して、金融機関からの借入れにより自己の資産管理会社に生じた利息等相当額を当該海外孫会社に支払わせたことは会社の取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する。

             5 会社には、完全子会社に生じた損害の金額に相当する資産の減少が生じ、会社は、これと同額の損害を被ったものと認められる。

【参照条文】      会社法423

【掲載誌】        金融・商事判例1642号44頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      法学教室504号121頁

 

 

会社法

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

 

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

 

 

 

 

 

 

       主   文

 

 1 被告は,原告補助参加人に対し,1億3600万香港ドル及び17万3562.23米国ドル並びにこれらに対する平成30年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 訴訟費用(補助参加によって生じたものを含む。)は被告の負担とする。

 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   主文1項と同旨

第2 事案の概要

   本件は,原告補助参加人(以下「補助参加人」という。)の株主である原告が,補助参加人の海外事業統括を職務分掌とされた取締役であり,かつ,補助参加人の海外子会社の代表者であった被告が,①被告及びその親族が株主である香港法人の第三者に対する貸金債権を回収する目的等で,上記海外子会社の代表者として,当該第三者が関与する会社に対して1億3500万香港ドルを貸し付け,②自己の個人的な利益を図る目的で,上記海外子会社の代表者として,受取人白地の1600万香港ドルの小切手を振り出し,③補助参加人の海外孫会社の取締役に指示をして,金融機関からの借入れにより上記香港法人に生じた利息等相当額17万3562.23米国ドルを上記海外孫会社に支払わせたところ,被告の上記各行為は,補助参加人の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するものであり,上記各行為により上記海外子会社及び海外孫会社の親会社である補助参加人に損害が生じたと主張して,被告に対し,会社法423条1項に基づき,補助参加人に生じた上記損害に係る損害金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成30年4月17日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を補助参加人に支払うことを求める事案である。