東朋学園事件・出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者とする旨の就業規則条項の適用に関しその基礎とする出勤した日数に産前産後休業の日数等を含めない旨の定めが公序に反し無効とされた事例
損害賠償請求控訴、仮執行の原状回復等を命ずる裁判の申立て、損害賠償請求附帯控訴事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/平成13年(受)第1066号
【判決日付】 平成15年12月4日
【判示事項】 1 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者とする旨の就業規則条項の適用に関しその基礎とする出勤した日数に産前産後休業の日数等を含めない旨の定めが公序に反し無効とされた事例
2 賞与の額を欠勤日数に応じて減額することを内容とする計算式の適用に当たり産前産後休業の日数等を欠勤日数に含めた所定の減額を行わずに賞与全額の支払請求を認容した原審の判断に違法があるとされた事例
【判決要旨】 1 出勤率が90%以上の従業員を賞与支給対象者としこれに満たない者には賞与を支給しないこととする旨の就業規則条項の適用に関し,出勤率算定の基礎とする出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し,出勤した日数に上記日数及び育児を容易にするための措置により短縮された勤務時間分を含めない旨を定めた就業規則の付属文書の定めは,従業員の年間総収入額に占める賞与の比重が高いため,上記条項により賞与が支給されない者の受ける経済的不利益が大きく,従業員が産前産後休業を取得し又は勤務時間短縮措置を受けた場合には,それだけで上記条項に該当して賞与の支給を受けられなくなる可能性が高いという事情の下においては,公序に反し無効である。
2 賞与の額を欠勤日数に応じて減額することを内容とする計算式及びその適用に当たりその基礎となる欠勤日数に産前産後休業の日数及び育児を容易にするための措置により短縮された勤務時間分を含める旨を定めた就業規則の付属文書の定めが無効となる理由を具体的に説示することなく,上記計算式を適用せず,産前産後休業の日数等を欠勤日数に含めた所定の減額を行わずに賞与全額の支払請求を認容した原審の判断には,違法がある。
(2につき意見及び反対意見がある。)
【参照条文】 民法90
労働基準法65
育児休業等に関する法律10
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事212号87頁
裁判所時報1353号3頁
判例タイムズ1143号233頁
判例時報1847号141頁
労働判例862号14頁
労働経済判例速報1858号3頁
【評釈論文】 ジュリスト1279号161頁
民法
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
労働基準法
(産前産後)
第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
(不利益取扱いの禁止)
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。