国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科することと憲法39条 所得税法違反被告事件 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科することと憲法39条

 

 

所得税法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和43年(あ)第712号

【判決日付】      昭和45年9月11日

【判示事項】      国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科することと憲法39条

【判決要旨】      同一の租税逋脱行為について国税通則法68条の重加算税のほかに刑罰を科しても、憲法39条に違反しない。

【参照条文】      国税通則法68

             旧所得税法69(昭和40年法律33号による改正前)

             所得税法238

             憲法39

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集24巻10号1333頁

 

 

憲法

第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

 

 

国税通則法

(重加算税)

第六十八条 第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

2 第六十六条第一項(無申告加算税)の規定に該当する場合(同項ただし書若しくは同条第七項の規定の適用がある場合又は納税申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

3 前条第一項の規定に該当する場合(同項ただし書又は同条第二項若しくは第三項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者が事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかつたときは、税務署長又は税関長は、当該納税者から、不納付加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る不納付加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を徴収する。

4 前三項の規定に該当する場合において、これらの規定に規定する税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されたものに基づき期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正若しくは第二十五条(決定)の規定による決定又は納税の告知(第三十六条第一項(納税の告知)の規定による納税の告知(同項第二号に係るものに限る。)をいう。以下この項において同じ。)若しくは納税の告知を受けることなくされた納付があつた日の前日から起算して五年前の日までの間に、その申告、更正若しくは決定又は告知若しくは納付に係る国税の属する税目について、無申告加算税等を課され、又は徴収されたことがあるときは、前三項の重加算税の額は、これらの規定にかかわらず、これらの規定により計算した金額に、これらの規定に規定する基礎となるべき税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

(加算税の税目)

第六十九条 過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税(以下「加算税」という。)は、その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とする。

 

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 一 被告人本人の上告趣意第一点のその一について。

 所論は、本件には昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法六九条が適用されるところ、同条二項の規定では罰金の最高限度額が定まつておらず、刑量の特定を欠くといい、これを前提として、同条項が憲法三一条に違反する旨主張する。

 しかし、所論改正前の所得税法六九条二項は、同条一項の「免れた又は還付を受けた所得税額が五百万円をこえるときは、同項の罰金は、五百万円をこえその免れた又は還付を受けた所得税額に相当する金額以下となすことができる。」と規定としているところ、「五百万円をこえその免れた又は還付を受けた所得税額」は、当該被告事件の裁判において認定されることによつて特定されるものであるから、罰金の最高限度額が定まつておらず、刑量が特定されていないということはできない。それゆえ、違憲の論旨は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

 二 同第一点のその二について。

 所論は、重加算税のほかに刑罰を科することは、憲法三九条に違反する旨主張する。

 しかし、国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が課税要件事実を隠ぺいし、または仮装する方法によつて行なわれた場合に、行政機関の行政手続により違反者に課せられるもので、これによつてかかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もつて徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは趣旨、性質を異にするものと解すべきであつて、それゆえ、同一の租税逋脱行為について重加算税のほかに刑罰を科しても憲法三九条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである(昭和三三年四月三〇日大法廷判決・民集一二巻六号九三八頁参照。なお、昭和三六年七月六日第一小法廷判決・刑集一五巻七号一〇五四頁参照。)。そして、現在これを変更すべきものとは認められないから、所論は、採ることができない。

 三 同第一点のその三について。

 所論は、昭和四〇年法律三三号による改正前の所得税法六九条に規定されている罰金刑は、甚だ高額であるが、別に重加算税が課せられるとなれば、両者の額を合算すれば、被告人は著しく過大な金額を国家に納付することになるから、右六九条は、刑罰は公正な刑罰であることを要求する憲法三一条に違反する旨主張する。

 しかし、憲法三一条が所論のごとき事項を保障する規定であるかどうかは別にして、前述のごとく、罰金と重加算税とは、その趣旨、性質を異にするものであり、そして、所論改正前の所得税法六九条の罰金刑は、同条にその寡額の定めがなく、情状により比較的軽く量定されることもありうるのであるから、同条の罰金刑の規定自体が著しく重いということはできない。それゆえ、違憲の論旨は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

 四 同第二点について。

 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

 なお、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  昭和四五年九月一一日

     最高裁判所第二小法廷