株券発行会社の代表取締役兼一人株主が違法・不当な目的をもって故意に無効な株券を作成し、これを用いて株式譲渡の意思を表示した場合において、その行為が社会通念上著しく正義に反したものというべきときには、譲受人は、意思表示のみによって有効に株式の譲渡を受けることができる
株主権確認等請求事件(第1事件)、取締役の地位不存在確認等請求事件(第2事件)
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第15999号、平成30年(ワ)第23626号
【判決日付】 令和元年10月7日
【判示事項】 1 株式譲渡契約が通謀虚偽表示によるものとして無効であるとされた事例
2 発行された株券が無効な株券であるとされた事例
3 株券発行会社の代表取締役兼一人株主が違法・不当な目的をもって故意に無効な株券を作成し、これを用いて株式譲渡の意思を表示した場合において、その行為が社会通念上著しく正義に反したものというべきときには、譲受人は、意思表示のみによって有効に株式の譲渡を受けることができる
【判決要旨】 1 当該事実関係の下では、株式譲渡契約は通謀虚偽表示によるものとして無効である。
2 株券発行会社およびその代表取締役が、その株式を表章する株券として発行する意思をもって新株券を発行したものでなく、かつ、旧株券について会社法に定められている株券無効化手続を経ていないなどの事実関係が認められる場合には、当該新株券は株式を表章する株券というべきではなく、無効な株券である。
3 株券発行会社の代表取締役兼一人株主が違法・不当な目的をもって故意に無効な株券を作成し、これを用いて株式譲渡の意思を表示し譲受人の不利益の下に自らの利益を図ったような場合において、当該代表取締役兼一人株主の行為が社会通念上著しく正義に反したものというべきときには、信義則に照らして、当該代表取締役兼一人株主から株式を取得した譲受人は、意思表示のみによって有効に株式の譲渡を受けることができ、株券発行会社および代表取締役兼一人株主は、譲受人に対し、もはや株券の交付がないことを理由としてその譲渡の効力を否定することはできない。
【参照条文】 会社法128
【掲載誌】 金融・商事判例1596号28頁
会社法
(株券発行会社の株式の譲渡)
第百二十八条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。
主 文
1 原告と被告らとの間で、原告が被告会社の株式1000株を保有する株主であることを確認する。
2 原告が被告会社の取締役及び代表取締役の地位にあることを確認する。
3 被告Y2が被告会社の取締役及び代表取締役の地位にないことを確認する。
4 被告Y3が被告会社の取締役の地位にないことを確認する。
5 被告Y4が被告会社の監査役の地位にないことを確認する。
6 原告のその余の請求を棄却する。
7 被告会社の請求を棄却する。
8 訴訟費用は、第1事件につき、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、第2事件につき、被告会社の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1) 請求の趣旨(1)ないし(5)
主文第1項ないし第5項同旨
(2)請求の趣旨(6)
被告会社、被告Y2及び被告Y3は、原告に対し、連帯して金1000万円及びこれに対する平成30年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
原告が被告会社の取締役及び代表取締役の地位にないことを確認する。
第2 事案の概要
第1事件は、原告が、被告会社の一人株主及び取締役兼代表取締役であった被告Y2が保有していた被告会社発行の株式(以下「被告会社株式」という。)全部について転々譲渡を受け、当該株式に係る株券の交付を受けたと主張して、被告会社、被告Y2、被告会社の取締役であり被告Y2から被告会社株式の一部を譲り受けたとする被告Y3、監査役であった被告Y4及び被告Y2から被告会社株式の一部を譲り受けたとする被告Y5に対し、①自らが被告会社の全株式を保有する株主であることの確認を求め、②被告会社の株主総会において自らが被告会社の取締役兼代表取締役に選任されるとともに被告会社の取締役会及び監査役設置の定めを廃止し、被告会社の取締役の員数を一名とする定款変更について株主総会決議が可決なされたなどと主張して、被告らに対し、原告が被告会社の取締役兼代表取締役であることの確認を求めるとともに、③被告Y2及び被告Y3が仮処分命令の申立てを行い、虚偽の主張及び疎明資料の提出によって原告が被告会社の取締役及び代表取締役の地位を有しない旨の仮処分決定を当庁に発せしめたことにより、原告が商業登記簿に自らが取締役兼代表取締役であることの登記を受けられず、本件訴訟を含めた訴訟等の提訴ないし訴訟追行のために弁護士費用等の損害が発生したとして、被告Y2及び被告Y3に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1000万円及びこれに対する上記仮処分決定日である平成30年5月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。被告らは、第1事件において、原告が所持する株券は偽造されたものであって、仮に、これが被告Y2により作成されたものと認められたとしても、当該株券は会社法221条以下に規定される株券喪失登録制度に基づき既に発行済みの被告会社の株券を無効とすることなく発行されたものであって、無効であるなどとして争った。
第2事件は、被告会社が、原告に対し、原告に係る取締役兼代表取締役選任決議等の上記各株主総会決議が不存在であるとして、原告が上記地位にないことの確認を求めた事案である。