売買を請求原因とする所有権確認の判決が確定したのち後訴において詐欺を理由に右売買を取り消して所有権の存否を争うことの許否
土地所有権確認請求事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和55年(オ)第589号
【判決日付】 昭和55年10月23日
【判示事項】 売買を請求原因とする所有権確認の判決が確定したのち後訴において詐欺を理由に右売買を取り消して所有権の存否を争うことの許否
【判決要旨】 売買を請求原因とする所有権確認の判決が確定したのちは、後訴において詐欺を理由に右売買を取り消して所有権の存否する争うことは許されない。
【参照条文】 民法96
民法121
民事訴訟法199
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集34巻5号747頁
民法
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
(取消しの効果)
第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
民事訴訟法
(既判力の範囲)
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
【判例番号】 L03510100
土地所有権確認請求事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和55年(オ)第589号
【判決日付】 昭和55年10月23日
【出 典】 判例タイムズ427号77頁
本件の事案は、判示事項に関連する部分を摘録すると、およそ次のようなものである。
Y(被告・被控訴人・被上告人)は、昭和45年に津簡易裁判所に対し、X(原告・控訴人・上告人)を相手方として、本件売買契約により本件土地の所有権を取得したとして、所有権確認及び所有権移転登記手続を求める訴を提起したところ、一審でY勝訴の判決があり、右判決が控訴、上告を経て確定したので、昭和49年8月本件土地につきY名義の所有権移転登記がなされた。
ところが、Xは、右判決確定後、本件売買契約はYの詐欺によるものであるとして右売買を取り消し、本件土地の所有権に基づき、Yを相手方として、本件土地についてなされたYのための所有権移転登記の抹消を求める本訴を提起した。
これに対し、一、二審とも、Xの本訴請求の先決問題である本件土地の所有権の帰属は既に前訴判決で確定されているから、Xの詐欺を理由とする売買取り消しの主張は前訴判決の既判力に牴触し許されないと判断し、Xの請求を棄却した。
そこで、Xは、Xの取消権の主張が前訴判決の既判力に牴触すると判断した原判決には、民訴法199条の解釈を誤つた違法があると上告したが、本判決は、判決要旨のような判断を示してXの上告を棄却した。
確定判決で敗訴した当事者は、その訴訟の事実審の最終口頭弁論期日までに主張することができた事実を、その後の訴訟で主張して、既に確定した権利関係を争うことができないことはいうまでもないが、取消権、解除権、相殺権などの形成権を既判力の標準時以後に行使して、既に確定した権利関係の消滅・変更を主張することができるかどうかについては、判例、学説上見解が分かれる。
大審院は、形成権は、その行使した時にはじめて権利関係の消滅・変更を来すものであるから、形成権の原因となる事実(詐欺、強迫など)が既判力の標準時以前に存在したとしても、既判力の標準時以後に形成権を行使して権利関係の消滅・変更を主張することができると解してきた(法律行為の取消について大判明42・5・28民録15輯528頁、相殺について大判明43・11・26民録16輯764頁など)。
ところが、最高裁は、相殺については、大審院判例の立場を踏襲することを明らかにしたが(最判昭40・4・2民集9巻3号539頁)、取消権については、書面によらない贈与の取消というやや特殊な事例ではあるが、前訴判決の確定後は、既判力の効果として、民法550条による取消権の行使は許されない旨判示した(最判昭36・12・12民集15巻11号2778頁)。
他方、学説は、大審院判例に反対するのが通説であるが(菊井・強制執行法(総論)233頁、兼子・増補強制執行法99頁、新堂・民訴法411頁、3ケ月・民訴法32頁など)、通説に反対する有力説があり(中野「形成権の行使と請求異議の訴」強制執行・破産の研究36頁)、また、前訴で形成権を行使しなかつたことにつき有責であるか否かを基準にして、個々の形成権ごとに個別的に判断すべきであると説く折衷説もある(上田「遮断効と提出責任」末川先生追悼論集・法と権利3 236頁)。
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