営業秘密漏えい罪・無罪事件・名古屋地裁令和4年3月18日 不正競争防止法違反被告事件 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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営業秘密漏えい罪・無罪事件・名古屋地裁令和4年3月18日

 

 

不正競争防止法違反被告事件

【事件番号】      名古屋地方裁判所判決/平成29年(わ)第427号

【判決日付】      令和4年3月18日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

不正競争防止法

(定義)

第二条1項 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

 

       主   文

 

 被告人両名はいずれも無罪。

 

       理   由

 

第1 公訴事実

 本件公訴事実は,「被告人aは,磁気センサの開発,製造及び販売等を目的とするb株式会社(以下「b」という。)において,平成24年6月19日から平成25年6月17日までの間,役員である技監として磁気センサの開発・製造に関し提言等をする業務に従事していた者,被告人cは,同社において,平成24年6月19日から平成25年12月31日までの間,従業者である生技・製造本部第3生産技術部部長として磁気センサの開発・製造業務の管理等に従事していた者であって,いずれも,同社から,同社が保有する営業秘密であるワイヤ整列装置の機能及び構造,同装置等を用いてアモルファスワイヤを基板上に整列させる工程に関する技術上の情報を示されるとともに,同社に対し,前記情報の管理に係る任務を負っていたものであるが,被告人両名は,共謀の上,不正の利益を得る目的で,前記任務に背いて,同年4月9日,岐阜県各務原市甲町乙丁目丙番地同社q工場(以下「本件工場」という。)会議室において,株式会社d(以下「d」という。)従業員eに対し,前記情報を口頭及び同所に設置されたホワイトボード(以下「本件ホワイトボード」という。)に図示する方法で説明し,もってbの営業秘密を開示した」というものである。

第2 検察官主張工程

 検察官は,被告人両名が,平成25年4月9日の打合せ(以下「本件打合せ」という。)において,eに対し,ワイヤ整列装置が

 〈ア〉 引き出しチャッキングと呼ばれるつまみ部分(以下「チャック」という。)がアモルファスワイヤをつまみ,一定の張力を掛けながら基板上方で右方向に移動する

 〈イ〉 アモルファスワイヤに張力を掛けたまま仮固定する

 〈ウ〉 基板を固定した基板固定台座を上昇させ,仮固定したアモルファスワイヤを基準線として位置決め調整を行う

 〈エ〉 基板固定台座を上昇させ,アモルファスワイヤを基板の溝及びガイドに挿入させ,基板固定治具に埋め込まれた磁石の磁力で仮止めする

 〈オ〉 基板の左脇でアモルファスワイヤを機械切断する

 〈カ〉 基板固定台座が下降し,次のアモルファスワイヤを挿入するために移動する

 〈キ〉 以下〈ア〉ないし〈カ〉を機械的に繰り返す

というワイヤ整列工程を可能とする装置である旨を口頭及び本件ホワイトボードに図示する方法で説明した旨主張し,〈ア〉から〈キ〉までの工程(以下「検察官主張工程」という。)が,bが独自に開発・構成した一連一体の工程であって,bに帰属し,保有されているbの営業秘密である旨主張する。

 なお,検察官は,検察官主張工程の内容に対応する範囲を超えて,bの保有する各ワイヤ整列装置の構造,工程の細部に至る立証はしない,と明示している。

第3 争点等

 弁護人は,①検察官主張工程(あるいは,同工程に関して被告人両名が本件打合せにおいて説明した情報)は,bの営業秘密ではない,②被告人両名にbの営業秘密を開示する故意はない,③被告人両名に不正の利益を得る目的はないなどと指摘して,被告人両名がいずれも無罪である旨主張し,被告人両名もそれに沿う供述をしている。

第4 判断の骨子

 本件打合せにおいて被告人両名がeに説明した情報は,アモルファスワイヤを基板上に整列させる工程に関するものではあるが,bの保有するワイヤ整列装置の構造や同装置を用いてアモルファスワイヤを基板上に整列させる工程とは,工程における重要なプロセスに関して大きく異なる部分がある。また,上記情報のうち検察官主張工程に対応する部分は,アモルファスワイヤの特性を踏まえて基板上にワイヤを精密に並べるための工夫がそぎ落とされ,余りにも抽象化,一般化されすぎていて,一連一体の工程として見ても,ありふれた方法を選択して単に組み合わせたものにとどまり,一般的には知られておらず又は容易に知ることができないとはいえないので,営業秘密の三要件(秘密管理性,有用性,非公知性)のうち,非公知性の要件を満たすとはいえない。したがって,被告人両名は,本件打合せにおいて,bの営業秘密を開示したとはいえない。

 また,仮に,被告人両名の行為が客観的には営業秘密開示行為に該当するという見解を採ったとしても(この仮定は,当裁判所の見解ではない。),被告人両名において,本件打合せでeに説明した情報について,bの営業秘密に該当しないと考えていた疑いが残り,そのように考えたことについて,相当な理由があるといえることなどからすると,被告人両名について,故意責任を問うことはできない。

 よって,被告人両名は無罪である。