原野商法と錯誤
不当利得等請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/昭和56年(ワ)第6536号
【判決日付】 昭和58年6月29日
【判示事項】 別荘地として売買された土地が、年間を通じて交通困難な人里離れた山中にあり、付近には別荘民家もほとんどなく、段々状の傾斜地で別荘建築は困難であり、時価も約定の3分の1以下であると認められる場合に、売買契約を動機の錯誤により無効であるとした事例
【参照条文】 民法95
【掲載誌】 判例タイムズ508号128頁
民法
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
【判旨】
以上の認定事実によれば、原告は、被告らの前記現地案内図及び分譲図を示しながらの説明・勧誘により、投資目的ではあるにせよ、本件土地は別荘地として適合し別荘用地としての価値のある土地であると認識してこれを買受けたことが認められるところ、本件土地は冬期は勿論、その他の時期においても交通困難な人里離れた山中に所在し、付近には別荘・民家もほとんどなく、段々状の傾斜地で別荘建築は困難で地価も低いのであるから、原告には本件売買契約締結に至る動機において誤信ないし錯誤が存したものというベきであり、しかも、右動機は本件売買契約において表示され、かつ、被告においてこれを知つており、法律行為の内容となつているところ、原告が右の客観的事実を知つていたならば本件土地を前記代金で別荘用地として買受けることはなかつたであろうと推認されるから、本件売買契約における原告の意思表示には、法律行為の要素に錯誤があるといわざるをえず、右意思表示引いては本件売買契約は無効ということができる。