労働者が妊娠・出産を契機として,意に反する降格や退職強要等を受けたうえ,有期雇用契約への転換を強 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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労働者が妊娠・出産を契機として,意に反する降格や退職強要等を受けたうえ,有期雇用契約への転換を強いられ,最終的に解雇された事件

 

フーズシステム事件

 

 

              雇用契約上の地位確認等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成28年(ワ)第34757号

【判決日付】      平成30年7月5日

【判示事項】      1 育児介護休業法23条の2における規定の文言や趣旨等に鑑みると,当該規定は,育児のための所定労働時間の短縮申出を理由とする不利益取扱いを禁止し,育児のための所定労働時間の短縮措置を希望する労働者が懸念なく同申出をできるようにしようとする目的を実現するために,これに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり,育児のための所定労働時間の短縮申出および同措置を理由として解雇その他不利益取扱いをすることは,同条に違反するものとして違法であり,無効であるというべきであるとされた例

             2 育児介護休業法23条の2の対象は事業主による不利益な取扱いであるから,労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には,事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取り扱ったものではないから,直ちに違法,無効であるとはいえないとされた例

             3 労働者の不利益変更にかかる合意は,もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり,かつ,労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば,当該合意の成立および有効性についての判断は慎重にされるべきであって,そうすると,上記短縮申出に際してされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには,当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容および程度,労働者が当該合意をするに至った経緯およびその態様,当該合意に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等を総合考慮し,当該合意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきであるとされた例

             4 被告Y1社が原告Xとの間でパート契約を締結したことは,育児介護休業法23条の所定労働時間の短縮措置を求めたことを理由とする不利益取扱いに当たるとされた例

             5 育児介護休業法23条に従い,嘱託勤務のままで所定労働時間の短縮措置をとるべきであったにもかかわらず,パート契約でなければ時短勤務はできない旨の説明をしたうえで,Xの真に自由な意思に基づかないで,嘱託社員からパート社員へ雇用形態を変更する旨のパート契約を締結させ,事務統括から事実上降格したことは,同法23条の2の禁止する不利益取扱いに当たり,不利益の内容や違法性の程度等に照らし,Xに対する不法行為を構成するとされた例

【参照条文】      労契法16

             労働基準法65

             育児介護法23

             育児介護法23の2

             雇用均等法9-3

             民法536-2

             民法709

             民法715

【掲載誌】        判例時報2426号90頁

             労働判例1200号48頁

 

 

労働契約法

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

 

労働基準法

(産前産後)

第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

(所定労働時間の短縮措置等)

第二十三条 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないものとして定められた労働者に該当する労働者については、この限りでない。

一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者

二 前号に掲げるもののほか、育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの

三 前二号に掲げるもののほか、業務の性質又は業務の実施体制に照らして、育児のための所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者

2 事業主は、その雇用する労働者のうち、前項ただし書の規定により同項第三号に掲げる労働者であってその三歳に満たない子を養育するものについて育児のための所定労働時間の短縮措置を講じないこととするときは、当該労働者に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく育児休業に関する制度に準ずる措置又は労働基準法第三十二条の三第一項の規定により労働させることその他の当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(第二十四条第一項において「始業時刻変更等の措置」という。)を講じなければならない。

3 事業主は、その雇用する労働者のうち、その要介護状態にある対象家族を介護する労働者であって介護休業をしていないものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく連続する三年の期間以上の期間における所定労働時間の短縮その他の当該労働者が就業しつつその要介護状態にある対象家族を介護することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第二項において「介護のための所定労働時間の短縮等の措置」という。)を講じなければならない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうち介護のための所定労働時間の短縮等の措置を講じないものとして定められた労働者に該当する労働者については、この限りでない。

一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者

二 前号に掲げるもののほか、介護のための所定労働時間の短縮等の措置を講じないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの

4 前項本文の期間は、当該労働者が介護のための所定労働時間の短縮等の措置の利用を開始する日として当該労働者が申し出た日から起算する。

第二十三条の二 事業主は、労働者が前条の規定による申出をし、又は同条の規定により当該労働者に措置が講じられたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

 

 

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

 

 

民法

(債務者の危険負担等)

第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。