マネージメントを行う旨の「専属契約」につき,実態において,事業に使用されている労働基準法上の「労 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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マネージメントを行う旨の「専属契約」につき,実態において,事業に使用されている労働基準法上の「労働者」にほかならず,実質において,雇用契約であるとした事例

 

 

専属契約不存在確認等請求反訴事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成17年(ワ)第5148号、平成17年(ワ)第23181号

【判決日付】      平成19年3月27日

【判示事項】      マネージメントを行う旨の「専属契約」につき,実態において,事業に使用されている労働基準法上の「労働者」にほかならず,実質において,雇用契約であるとした事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

労働基準法

(定義)

第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 

 

       主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 被告Y1と原告の間で,平成14年7月1日付専属契約に基づく権利義務が存在しないことを確認する。

 3 原告は,その営業活動に被告Y1の氏名及び肖像並びに平成11年3月17日登録のドメイン名△△△.co.jpを使用してはならない。

 4 原告は被告Y1に対し,金1750万6200円及びこれに対する平成17年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 5 被告Y1のその余の請求を棄却する。

 6 訴訟費用は,原告と被告Y1の間で生じたものは本訴反訴を通じこれを5分し,その3を原告の,その余を被告Y1の負担とし,原告と被告Y2の間で生じたものは原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 (本訴)

   被告らは原告に対し,各自,金9887万9894円及びこれに対する平成17年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (反訴)

 1 主文2項と同旨

 2 原告は被告Y1の氏名及び肖像を使用してはならない。

 3 原告は被告Y1に対し,金9110万円及びこれに対する平成17年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

   本訴事件は,原告が,被告Y1に対しては,平成14年7月1日,被告Y1と原告が,原告において被告Y1の芸名,肖像権等を管理し,またマネージメントを行う旨の「専属契約」(以下「本件契約」という。)を締結したにもかかわらず,被告Y1は平成16年12月27日に一方的に本件契約の解除を申し出たため,平成17年2月1日以降同年3月末日までの間のレギュラー以外の出演依頼及び同年4月2日以降の一切の出演依頼を断らざるを得ない状況になったとして,債務不履行に基づく損害賠償として,9887万9894円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成17年3月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求め,被告Y2に対しては,被告Y1が本件契約を破棄して,被告Y2が設立する有限会社A(以下「A社」という。)に移籍するよう勧誘して,被告Y1の債務不履行を誘発したとして,共同不法行為に基づく損害賠償として同額の連帯支払いを求めた事案である。

   反訴事件は,被告Y1が,原告に対し,①本件契約は雇用契約であり,解除ないし解約により終了したとして,本件契約に基づく権利義務が存在しないことの確認,②被告Y1の氏名を含むドメイン名(△△△.co.jp)を不当に登録・使用してホームページを運営し,被告Y1の氏名及び肖像を無権限で使用して「□□□スクール」と称する英会話学校の広告宣伝を行っていると主張して,不正競争防止法2条1項1号・2号・13号及び3条又はいわゆるパブリシティ権に基づき被告の氏名・肖像の使用の差止め,③上記②のパブリシティ権侵害のほか,営業妨害の不法行為(又は不正競争防止法2条1項14号,4条)に基づく損害賠償として,弁護士費用を含め合計7260万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成17年11月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払い(遅延損害金の内容につき④以下も同じ),④本件契約に基づく平成17年1月分の給与未払分150万円及びこれに対する遅延損害金の支払い,⑤本件契約終了後のテレビ出演について,対価支払合意又は不当利得返還請求権に基づき500万円及びこれに対する遅延損害金の支払い,⑥別紙書籍目録記載の英会話書籍4冊についての著者は被告Y1であるところ,原告が印税を取得しているとして,不当利得返還請求として1200万円及びこれに対する遅延損害金の支払い,を求めた事案である。

 2 基本的事実関係(争いがないか,各所記載の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。なお,書証は枝番を含む。以下同じ)

 (1)原告は,株式会社X1の名称でラジオ・テレビ・劇場・映画・その他演芸の供給及び企画制作を業とする会社であり,特に,外国人タレントやモデルのプロモーションを中心的業務としている。

    被告Y1は,もともと原告代表者の知人であり,平成6年1月の原告設立時からその運営に関与し,外国人エキストラのマネージャーとして稼働していたが,日本語能力が注目されて,自らもタレントとして活動するようになった。

    被告Y1は,平成8年ころには,民放テレビ番組のレギュラー出演や,消費者金融のコマーシャルなどで,全国的な知名度を得るようになり,以後テレビ番組の出演機会も増えていった(乙34)。

 (2)原告は,平成11年3月17日,△△△.co.jpのドメイン名(以下「本件ドメイン」という。)の登録を得た(乙16)。

 (3)原告と株式会社B社(以下「B社」という。)は,以下の日付で,各書籍について出版契約を締結した(乙20)。これらの書籍(以下「本件書籍1」ないし「本件書籍4」といい,包括して「本件書籍」という。)には,著者として被告Y1が表示されている(乙25ないし28)。

   ア 平成11年9月6日 「×××」

   イ 平成12年7月5日 「▲▲▲」

   ウ 平成12年8月5日 「□□□」

   エ 平成13年6月5日 「◇◇◇」

 (4)原告と被告Y1は,平成14年7月1日,本件契約を締結した。

    本件契約は,冒頭に「マネージメントに関する専属契約」と表示し,以下の規定を有する(甲1)。

   ア 被告Y1は原告の専属芸術家として本契約期間中,原告の指示に従い音楽演奏会,映画,演劇,ラジオ,テレビ,レコード,音楽テープ,ビデオテープ,肖像の利用その他一切の芸能に関する出演業務をするものとし,原告の承認を得ないでこれをすることはできない(1条)。

   イ 原告は被告Y1に対し,専属料月100万円を支払う。被告Y1の仕事において売上げが大幅に上昇した場合は,協議の上歩合で支給する。□□□スクールに関する利益に関しては別途,株式会社Cとの契約を行う(2条)。

   ウ 原告は,原告・被告Y1共通の利益を目的とする広告宣伝のための被告Y1の芸名,写真,肖像,筆跡,経歴等を自由に無償で使用することができる。

     原告が代償を得て第三者のためにこれらの行為をした場合は,1条記載のY1の出演業務とみなす(3条)。

   エ 本件契約の期間中において,被告Y1のした一切の出演に関する権利は,すべて原告が保有する(4条)。

   オ 契約期間は平成14年7月1日から10年とする(6条)。

 (5)原告と代表者を同じくする株式会社D(以下「D社」という。)は,遅くとも平成16年ころには,「□□□スクール」の名称を有する英会話学校をフランチャイズ展開した。

    また,原告は,このころまでには,本件ドメインを使用して「●●●」と題するホームページ(以下「本件ホームページ」という。)を運営し,その中で□□□スクールの広告宣伝を行なっている(乙17,18)。

 (6)平成16年夏ころから原告と被告Y1の間は悪化し,平成16年10月には,「□□□」誌上で被告Y1が原告を批判した(甲3,4)。

 (7)被告Y1は,平成16年12月28日,原告に対し,平成17年1月31日をもって本件契約を信頼関係破壊を理由に解除し,ないしは雇用契約として解約申入れをする旨の意思表示をした(乙1)。

 (8)被告Y1は,平成17年2,3月を通じ,(7)の意思表示前に原告が出演契約を締結していたレギュラー番組に出演した。

 (9)被告Y1は,平成17年2月10日発送の書面(乙8)をもって,原告に対し,原告の専属料不払い,営業妨害・信用毀損行為等を理由に,本件契約を解除する旨の意思表示をした。

 3 争点

 (1)本件契約の法的性質。原告に損害賠償請求権が認められる場合の損害額

 (2)原告による被告Y1に対する不正競争行為ないし権利侵害(パブリシティ権侵害,営業妨害等)の有無。不法行為が肯定された場合の損害額

 (3)未払報酬の有無及び額

 (4)被告Y1が平成17年2,3月に原告の仕事をしたことについて,金銭支払請求権の有無及び額

 (5)本件書籍の著作者は被告Y1か。肯定された場合に被告Y1に支払われるべき額

 

(後略)