TPR事件・法人税法132条の2 法人税更正処分等取消請求控訴事件 東京高等裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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TPR事件・法人税法132条の2

 

 

法人税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和元年(行コ)第198号

【判決日付】      令和元年12月11日

【判示事項】      1 特定資本関係5年超要件を満たす適格合併に対する一般的否認規定の適用の可否

             2 完全子会社の適格合併につき、法人税法132条の2に基づき、未処理欠損金額を合併会社の欠損金額とみなして損金の額に算入する計算を否認することができるとした事例

【判決要旨】      1 法人税法57条3項は、それ自体、グループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であるにとどまり、特定資本関係5年超要件を満たす適格合併には一般的否認規定の適用が排除されるとはいえない。

             2 Xと完全子会社Aの適格合併において、①本件合併とともに、新会社Bの設立、A社の従業員のB社への転籍、A社からXが承継した事業に係る棚卸資産等のB社への譲渡、A社からXが承継した上記事業に係る製造設備等のB社への賃貸借がされたこと、②上記製造設備の所有権はXに帰属したものの、減価償却費相当額は賃借料の名目でB社が負担することになっており、XとB社との間の取引品についての単価変更は、上記賃貸借による損失負担のリスクからB社を解放するために実施された施策であり、これが適格合併において通常想定される方法であるといえるか疑義があること、③上記事業がA社からXに移転し、Xにおいて、上記事業を継続しているものと評価することは困難であって、ほぼ変化のないままB社に引き継がれ、XはA社の未処理欠損金額を引き継いだのみに等しいことなど判示の事情の下では、本件合併は、経済実態において実質的な変更がなく、移転資産等に対する支配が継続するものということはできないから、適格合併において通常想定されない手順や方法に基づくものであり、実態とは乖離した形式を作出するもので、不自然なものといわざるを得ず、租税再編税制に係る法人税法57条2項を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、同法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たり、税務署長は、同条に基づき、本件未処理欠損金額を合併会社の欠損金額とみなして損金の額に算入する計算を否認することができる。

【参照条文】      法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)2

             法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57

             法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132の2

             法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)4の2

             法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112-4

             法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112-7

【掲載誌】        金融・商事判例1595号8頁

 

 

法人税法

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(中略)

十二の八 適格合併 次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人又は合併親法人(合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係がある法人をいう。)のうちいずれか一の法人の株式又は出資以外の資産(当該株主等に対する剰余金の配当等(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。)として交付される金銭その他の資産、合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産及び合併の直前において合併法人が被合併法人の発行済株式等の総数又は総額の三分の二以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該合併法人以外の株主等に交付される金銭その他の資産を除く。)が交付されないものをいう。

イ その合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が法人を設立する合併(以下この号において「新設合併」という。)である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併

ロ その合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併のうち、次に掲げる要件の全てに該当するもの

(1) 当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務(当該合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務並びに当該合併後に行われる適格合併により当該被合併法人の当該合併前に行う主要な事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該適格合併に係る合併法人及び当該適格合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人の業務を含む。)に従事することが見込まれていること。

(2) 当該合併に係る被合併法人の当該合併前に行う主要な事業が当該合併後に当該合併に係る合併法人(当該合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人並びに当該合併後に行われる適格合併により当該主要な事業が当該適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合における当該適格合併に係る合併法人及び当該適格合併に係る合併法人との間に完全支配関係がある法人を含む。)において引き続き行われることが見込まれていること。

ハ その合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)とが共同で事業を行うための合併として政令で定めるもの

 

(欠損金の繰越し)

第五十七条 内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(この項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第八十条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつたものを除く。)がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。ただし、当該欠損金額に相当する金額が損金算入限度額(本文の規定を適用せず、かつ、第五十九条第三項及び第四項(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)並びに第六十二条の五第五項(現物分配による資産の譲渡)の規定を適用しないものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額の百分の五十に相当する金額をいう。)から当該欠損金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金額で本文の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額を控除した金額を超える場合は、その超える部分の金額については、この限りでない。

2 前項の内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合又は当該内国法人との間に完全支配関係(当該内国法人による完全支配関係又は第二条第十二号の七の六(定義)に規定する相互の関係に限る。)がある他の内国法人で当該内国法人が発行済株式若しくは出資の全部若しくは一部を有するものの残余財産が確定した場合において、当該適格合併に係る被合併法人又は当該他の内国法人(以下この項において「被合併法人等」という。)の当該適格合併の日前十年以内に開始し、又は当該残余財産の確定の日の翌日前十年以内に開始した各事業年度(以下この項、次項及び第七項第一号において「前十年内事業年度」という。)において生じた欠損金額(当該被合併法人等が当該欠損金額(この項の規定により当該被合併法人等の欠損金額とみなされたものを含み、第四項から第六項まで、第八項若しくは第九項又は第五十八条第一項(青色申告書を提出しなかつた事業年度の欠損金の特例)の規定によりないものとされたものを除く。次項において同じ。)の生じた前十年内事業年度について確定申告書を提出していることその他の政令で定める要件を満たしている場合における当該欠損金額に限るものとし、前項の規定により当該被合併法人等の前十年内事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第八十条の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつたものを除く。以下この項において「未処理欠損金額」という。)があるときは、当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度又は当該残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度(以下この項において「合併等事業年度」という。)以後の各事業年度における前項の規定の適用については、当該前十年内事業年度において生じた未処理欠損金額(当該他の内国法人に株主等が二以上ある場合には、当該未処理欠損金額を当該他の内国法人の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額で除し、これに当該内国法人の有する当該他の内国法人の株式又は出資の数又は金額を乗じて計算した金額)は、それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前十年内事業年度開始の日の属する当該内国法人の各事業年度(当該内国法人の合併等事業年度開始の日以後に開始した当該被合併法人等の当該前十年内事業年度において生じた未処理欠損金額にあつては、当該合併等事業年度の前事業年度)において生じた欠損金額とみなす。

3 前項の適格合併に係る被合併法人(同項の内国法人(当該内国法人が当該適格合併により設立された法人である場合にあつては、当該適格合併に係る他の被合併法人。以下この項において同じ。)との間に支配関係があるものに限る。)又は前項の残余財産が確定した他の内国法人(以下この項において「被合併法人等」という。)の前項に規定する未処理欠損金額には、当該適格合併が共同で事業を行うための合併として政令で定めるものに該当する場合又は当該被合併法人等と同項の内国法人との間に当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度開始の日(当該適格合併が法人を設立するものである場合には、当該適格合併の日)の五年前の日若しくは当該残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度開始の日の五年前の日、当該被合併法人等の設立の日若しくは当該内国法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合として政令で定める場合のいずれにも該当しない場合には、次に掲げる欠損金額を含まないものとする。

一 当該被合併法人等の支配関係事業年度(当該被合併法人等が当該内国法人との間に最後に支配関係を有することとなつた日の属する事業年度をいう。次号において同じ。)前の各事業年度で前十年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額(当該被合併法人等において第一項の規定により前十年内事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第八十条の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつたものを除く。次号において同じ。)

二 当該被合併法人等の支配関係事業年度以後の各事業年度で前十年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち第六十二条の七第二項(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)に規定する特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額

 

 

(組織再編成に係る行為又は計算の否認)

第百三十二条の二 税務署長は、合併、分割、現物出資若しくは現物分配(第二条第十二号の五の二(定義)に規定する現物分配をいう。)又は株式交換等若しくは株式移転(以下この条において「合併等」という。)に係る次に掲げる法人の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には、合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、法人税の額から控除する金額の増加、第一号又は第二号に掲げる法人の株式(出資を含む。第二号において同じ。)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、みなし配当金額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額をいう。)の減少その他の事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

一 合併等をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人

二 合併等により交付された株式を発行した法人(前号に掲げる法人を除く。)

三 前二号に掲げる法人の株主等である法人(前二号に掲げる法人を除く。)

 

       主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。