仮想通貨利用契約において、外部からの不正なアクセスにより仮想通貨交換業者が保有していた仮想通貨が外部に流出したために、サービスの利用の停止措置をとったことについて、債務不履行に当たらないとされた事例
仮想通貨送信等請求事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第4084号
【判決日付】 令和2年10月30日
【判示事項】 仮想通貨利用契約において、外部からの不正なアクセスにより仮想通貨交換業者が保有していた仮想通貨が外部に流出したために、サービスの利用の停止措置をとったことについて、債務不履行に当たらないとされた事例
【判決要旨】 仮想通貨利用契約において、外部からの不正なアクセスにより、仮想通貨交換業者が保有していた仮想通貨が外部に流出し、47日間サービスの利用の停止措置をとったことについて、①業者が仮想通貨を外部のネットワークに接続されているホットウォレットで保管し複数の秘密鍵を採用していなかったが、②上記流出当時、業者において顧客の仮想通貨を保管することができるような機能と安全性を備えた、外部のネットワークに接続されていないコールドウォレットが存在したとは認められず、コールドウォレットで保管することは事実上困難であったこと、③説明書の重要事項の記載によれば、業者が取扱仮想通貨の全てをコールドウォレットで保管しているわけではないことを認識することができたことなど判示の事実関係の下では、ハッキング等の方法により業者の資産が盗難された場合登録ユーザーに事前に通知することなくサービスの利用の全部または一部を停止することができる旨の契約条項の適用を制限すべき場合には当たらず、停止措置の期間が不相当に長期であると認めることはできないから、債務不履行には当たらない。
【参照条文】 資金決済に関する法律2-5
民法415
【掲載誌】 金融・商事判例1609号26頁
資金決済に関する法律
(定義)
第二条 この法律において「前払式支払手段発行者」とは、第三条第六項に規定する自家型発行者及び同条第七項に規定する第三者型発行者をいう。
2 この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。
3 この法律において「資金移動業者」とは、第三十七条の登録を受けた者をいう。
4 この法律において「外国資金移動業者」とは、この法律に相当する外国の法令の規定により当該外国において第三十七条の登録と同種類の登録(当該登録に類する許可その他の行政処分を含む。)を受けて為替取引を業として営む者をいう。
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
6 この法律において「通貨建資産」とは、本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの(以下この項において「債務の履行等」という。)が行われることとされている資産をいう。この場合において、通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなす。
7 この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
8 この法律において「暗号資産交換業者」とは、第六十三条の二の登録を受けた者をいう。
(後略)
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、238万1228円及びこれに対する平成30年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、被告と暗号資産(以下では、本件当時の呼称に合わせ「仮想通貨」という。)の管理サービスの利用契約を締結し、上記サービスを利用していた原告が、平成30年1月26日、被告の管理下にあった仮想通貨NEM(以下「NEM」という。)が外部からの不正なアクセスにより流出したこと(以下「本件事件」という。)及び被告が本件事件を契機にNEM以外の全ての取扱仮想通貨も顧客への送信を停止したこと(以下「本件停止措置」という。)について、本件事件は、被告が、顧客の仮想通貨を適切に管理する義務に違反したことにより発生し、また、被告による本件停止措置は、顧客の指示により仮想通貨の換金や出金に応じる義務に違反するものであり、原告は、被告の上記義務違反により、上記期間の仮想通貨の価値下落分の損害の一部である238万1228円の損害を被ったと主張して、被告に対し、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償として、同金員及びこれに対する請求後の日(訴状送達の日の翌日)である平成30年2月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。