劇団員の労働者性・エアースタジオ事件
賃金等請求控訴,附帯控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/令和元年(ネ)第4047号、令和元年(ネ)第5174号
【判決日付】 令和2年9月3日
【判示事項】 1 控訴人兼附帯被控訴人(一審原告)Xの労基法上の労働者性については,Xが被控訴人兼附帯控訴人(一審被告)Y社の指揮命令下に労務を遂行し,労務提供に対して賃金を支払われる関係にあったか否かにより判断するのが相当であり,①Xが劇団の各業務について諾否の自由を有していたか,②業務に際して時間的・場所的拘束があったか,③労務提供への対価が支払われていたかなどの諸点から個別具体的に検討すべきであるとされた例
2 ①本件劇団が年間約90本の公演を行っていたこと,②本件劇団との入団契約において,Xは裏方業務に積極的に参加するよう要請され,実際にも相当な回数の作業に参加していたこと,③音響照明業務については各劇団員らが年間4回程度担当するよう割り振りが決定され,Xらは割り当てられた公演の稽古と本番に音響照明の担当者として参加していたこと,④XはY社の小道具課に所属しており,年間を通じて小道具をまったく担当しないとか,一月に一公演のみ担当するというようなことが許される状況にあったとはいえないこと,⑤Xは公演の稽古や本番の日程に合わせて小道具を準備し,演出担当者の指示に従って小道具を変更することも求められていたことなどからすると,Xには上記裏方業務についての諾否の自由がなく,時間的・場所的拘束があったとされた例
3 ①Xらは公演に出演しない月には4日間の休日を作ることを推奨されていたこと,②劇団の業務とアルバイトとの両立が難しい劇団員らが多かったことも理由の一つとなって,Y社において月額6万円の支給が始まったこと,しかも現在はY社代表者の判断で月額20万円程度まで支払われる場合があり,単なる生活保障のための給付とは考えがたいこと,③本件劇団は,現在では,音響照明やセットの入替えには外部からアルバイトを雇い,給料を支払っていることなどの事実から,本件劇団は,裏方業務に相当な時間を割くことが予定されている劇団員らに対し,裏方業務への対価として月額6万円を支給していたものと評価するのが相当であるとされた例
4 ①Xらが本件劇団の公演出演を断ることは通常考えがたく,仮に断ることがあっても,それはY社の他の業務へ従事するためであって,Y社の指示には事実上従わざるを得なかったこと,②Xは裏方業務に追われ,他の劇団の公演への出演はもちろん,アルバイトすらできない状況にあり,しかも外部の仕事を受ける場合は副座長への相談を要したこと,③勤務時間・場所および公演についてはY社が決定していたことなどの事情も踏まえると,公演への出演・稽古についても,Xには諾否の自由がなく,Y社の指揮命令に服していたと認めるのが相当であるとして,公演への出演等は労務の提供といえないとした一審判断が変更された例
【掲載誌】 労働判例1236号35頁
労働基準法
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。