子会社の新規事業に係る貸付けおよび増資の判断に係る取締役としての善管注意義務違反の判断基準 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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子会社の新規事業に係る貸付けおよび増資の判断に係る取締役としての善管注意義務違反の判断基準

 

 

株主代表訴訟事件

【事件番号】      神戸地方裁判所判決/平成26年(ワ)第2580号

【判決日付】      令和元年5月23日

【判示事項】      1 子会社の新規事業に係る貸付けおよび増資の判断に係る取締役としての善管注意義務違反の判断基準

             2 子会社の新規事業の資金調達のための貸付けを決議した取締役および執行役に善管注意義務違反はないとされた事例

【判決要旨】      1 子会社の新規事業に係る貸付けおよび増資の判断については、事業の開始時および事業の開始後において、当該新規事業の成功の見込みおよび将来の見通し、失敗した場合に会社に与える悪影響、親会社および子会社の業績予測、財務状況等を総合的に考慮する必要があり、その意思決定は将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられた事項であって、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない。

             2 子会社の新規事業の資金調達のための貸付けを決定したことについて、①新規事業の収益性が見込めなかったということはできないこと、②貸付けが回収不能となるリスクが一定程度あったとしても、事業の成功の見込みが高く、成功した場合の利益が大きいこと、③それまでになかった全く新しい技術を使ったいまだ市場の形成されていない事業について、予測される将来的な商品の需要、売上高、リスク要因等について不確定な部分が多く、具体的な予測には限界があって、新規事業の開始およびこれに対する貸付けを承認した取締役会決議における意思決定が不合理であったとはいえないこと、④グループを含めた会社の規模に照らし、貸付額が過大であったとはいえないことなど判示の事実関係の下では、経営判断における裁量として合理性が認められ、取締役に善管注意義務違反はない。

【参照条文】      会社法330

             会社法355

             会社法419-1

             会社法423-1

             会社法847-3

【掲載誌】        金融・商事判例1575号14頁

【評釈論文】      金融・商事判例1601号2頁

 

 

 

会社法

(株式会社と役員等との関係)

第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

 

(忠実義務)

第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

 

(執行役の監査委員に対する報告義務等)

第四百十九条 執行役は、指名委員会等設置会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。

2 第三百五十五条、第三百五十六条及び第三百六十五条第二項の規定は、執行役について準用する。この場合において、第三百五十六条第一項中「株主総会」とあるのは「取締役会」と、第三百六十五条第二項中「取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号」とあるのは「第三百五十六条第一項各号」と読み替えるものとする。

3 第三百五十七条の規定は、指名委員会等設置会社については、適用しない。

 

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

 

(株主による責任追及等の訴え)

第八百四十七条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。)若しくは清算人(以下この節において「発起人等」という。)の責任を追及する訴え、第百二条の二第一項、第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十三条の二第一項若しくは第二百八十六条の二第一項の規定による支払若しくは給付を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。

2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。

3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。

4 株式会社は、第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人等から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。

5 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。