救急医療を要請しなかった不作為と被害者の死の結果との間に因果関係が認められた事例 覚せい剤取 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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救急医療を要請しなかった不作為と被害者の死の結果との間に因果関係が認められた事例

 

 

覚せい剤取締法違反、保護者遺棄致死被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成元年(あ)第551号

【判決日付】      平成元年12月15日

【判示事項】      救急医療を要請しなかった不作為と被害者の死の結果との間に因果関係が認められた事例

【判決要旨】      被告人らによって注射された覚せい剤により被害者の女性が錯乱状態に陥った時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女の救命が合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められる本件事案の下では、このような措置をとらなかった被告人の不作為と同女の死亡との間には因果関係がある。

【参照条文】      刑法218-1

             刑法219

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集43巻13号879頁

             最高裁判所裁判集刑事253号707頁

             裁判所時報1017号12頁

             判例タイムズ718号77頁

             判例時報1337号49頁

 

 

刑法

(保護責任者遺棄等)

第二百十八条 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。

(遺棄等致死傷)

第二百十九条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

 

 

 

【出  典】       判例タイムズ718号77頁

 

 本件は、不作為の因果関係についての最高裁判例である。

被告人は、暴力団構成員で、本件被害者(当時13才の女性)をホテルに連れ込んで、覚せい剤を注射したところ、同女が苦しみ出し、ホテルの窓から飛び下りようとするなど錯乱状態に陥ったのに、覚せい剤使用の事実の発覚をおそれ、同女をそのままに放置して、ホテルを立ち去り、その後ほどなくして、同女は、同室で覚せい剤による急性心不全により死亡したという事案である。

被害者が錯乱状態に陥った時点で救急車を呼んでいれば、十中八九救命できたという救急医療と法医学の各専門家の証言がある。