民法826条の利益相反行為と行為の動機 持分移転登記抹消登記手続履行請求事件 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

民法826条の利益相反行為と行為の動機

 

 

 

              持分移転登記抹消登記手続履行請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和34年(オ)第1128号

【判決日付】      昭和37年10月2日

【判示事項】      民法826条の利益相反行為と行為の動機

【参照条文】      民法826

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集16巻10号2059頁

 

 

民法

(利益相反行為)

第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人等の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人西原要人の上告理由について。

 親権者が子の法定代理人として、子の名において金員を借受け、その債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者自身の用途に充当する意図であつても、かかる意図のあることのみでは、民法八二六条所定の利益相反する行為とはいえないから、子に対して有効であり、これに反し、親権者自身が金員を借受けるに当り、右債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に右借受金を子の養育費に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、子に対しては無効であると解すべきである。

 原審確定の事実によれば、上告人等に対して親権を有する母である訴外Aは、上告人等の法定代理人として、上告人等を代理すると共に、同人も亦共同債務者となつて、昭和二七年四月一日訴外B株式会社より金六万円を借受け、その債務につき原判示家屋並に土地の各持分(上告人等名九分の二、訴外A九分の三)の上に原判示抵当権設定登記及び変更登記を経由して居るのであつて、右共同債務は、上告人等及び同女が平等に分割して負担するものであること、多言を要しない。

 されば、右借財の意図が同女自身の営業資金に充当するにあつたこと、所論の通りであつたとしても、同女が上告人等を代理して上告人等の名において前記金員を借受け、かつその債務につき上告人等の右持分の上に抵当権を設定したことは、民法八二六条所定の利益相反する行為に当らないのであつて、上告人等に対して有効である。さればとて、同女が上告人等の法定代理人として、前記債務の内同女自身の負担部分につき上告人等の前記持分の上に抵当権を設定したことは、仮に借受金を上告人等の利益となる用途に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、上告人等に対しては無効であるとなさざるを得ない。即ち、本件不動産の所論任意競売は、設定行為が有効なものと無効なものとを包含する抵当権の実行としてなされたものであること、明白である。

 しかしながら、上告人等の負担する各債務については訴外Aの前記持分のほか、上告人等の前記持分の上にそれぞれ有効な抵当権が存在し、これを併わせると本件家屋並に土地の全部について任意競売を実施できる関係にある以上、右任意競売において、右家屋並に土地は、何れも被上告人が最高価競落人となつて競落せられ、その競落許可決定が確定したのであるから、右不動産の所有権は、何れも被上告人に帰属して居るものとなさねばならない。

 それ故、上告人等が本件不動産の自己持分は、被上告人の所有に移つて居らないとの理由により、被上告人に対し本訴請求に及んだことは、失当である。前記債務の内訴外Aの負担部分につき本件不動産の上告人等の持分の上になされた抵当権設定定行為を有効であるとした原判示は、民法八二六条の解釈を誤つたものであること、所論の通りであるけれども、原審が上告人等の請求をすべて排斥したのは、結論において正当であるに帰着する。

 論旨に、結局、理由がない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷