一部事務組合の管理者が県当局者を接待するために行った宴会等の費用を公金により支出したことが違法とされた事例
地方自治法第242条の2に基づく損害賠償請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和61年(行ツ)第144号
【判決日付】 平成元年9月5日
【判示事項】 一部事務組合の管理者が県当局者を接待するために行った宴会等の費用を公金により支出したことが違法とされた事例
【判決要旨】 一部事務組合の管理者が県当局者に対し地元の要望を伝え、両者の意思の疎通を図るため宴会による接待をした場合において、右接待が行われるに至った経緯、右宴会に要した費用の総額が二九万円余であること、これに相当高額な芸妓花代九万円余、二次会で遊興した費用四万円余が含まれていたことなど判示の事情の下では、右接待は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものであり、右接待に要した費用を公金により支出したことは違法である。
【参照条文】 地方自治法2-2
地方自治法232-1
地方自治法242の2-1
地方自治法284
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事157号419頁
判例タイムズ717号101頁
金融・商事判例836号39頁
判例時報1337号43頁
地方自治法
第二条 地方公共団体は、法人とする。
② 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
(後略)
第四節 支出
(経費の支弁等)
第二百三十二条 普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。
2 法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に対し事務の処理を義務付ける場合においては、国は、そのために要する経費の財源につき必要な措置を講じなければならない。
第十節 住民による監査請求及び訴訟
(住民監査請求)
第二百四十二条 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 第一項の規定による請求があつたときは、監査委員は、直ちに当該請求の要旨を当該普通地方公共団体の議会及び長に通知しなければならない。
4 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合において、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下この条において「請求人」という。)に通知するとともに、これを公表しなければならない。
5 第一項の規定による請求があつた場合には、監査委員は、監査を行い、当該請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、当該請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
6 前項の規定による監査委員の監査及び勧告は、第一項の規定による請求があつた日から六十日以内に行わなければならない。
7 監査委員は、第五項の規定による監査を行うに当たつては、請求人に証拠の提出及び陳述の機会を与えなければならない。
8 監査委員は、前項の規定による陳述の聴取を行う場合又は関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員の陳述の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員又は請求人を立ち会わせることができる。
9 第五項の規定による監査委員の勧告があつたときは、当該勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講ずるとともに、その旨を監査委員に通知しなければならない。この場合において、監査委員は、当該通知に係る事項を請求人に通知するとともに、これを公表しなければならない。
10 普通地方公共団体の議会は、第一項の規定による請求があつた後に、当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない。
11 第四項の規定による勧告、第五項の規定による監査及び勧告並びに前項の規定による意見についての決定は、監査委員の合議によるものとする。
(住民訴訟)
第二百四十二条の二 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求
2 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める期間内に提起しなければならない。
一 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合 当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
二 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合 当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内
三 監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行わない場合 当該六十日を経過した日から三十日以内
四 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合 当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
3 前項の期間は、不変期間とする。
4 第一項の規定による訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができない。
5 第一項の規定による訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
6 第一項第一号の規定による請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。
7 第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。
8 前項の訴訟告知があつたときは、第一項第四号の規定による訴訟が終了した日から六月を経過するまでの間は、当該訴訟に係る損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効は、完成しない。
9 民法第百五十三条第二項の規定は、前項の規定による時効の完成猶予について準用する。
10 第一項に規定する違法な行為又は怠る事実については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
11 第二項から前項までに定めるもののほか、第一項の規定による訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条の規定の適用があるものとする。
12 第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
(訴訟の提起)
第二百四十二条の三 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。
2 前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。
3 前項の訴訟の提起については、第九十六条第一項第十二号の規定にかかわらず、当該普通地方公共団体の議会の議決を要しない。
4 前条第一項第四号本文の規定による訴訟の裁判が同条第七項の訴訟告知を受けた者に対してもその効力を有するときは、当該訴訟の裁判は、当該普通地方公共団体と当該訴訟告知を受けた者との間においてもその効力を有する。
5 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、普通地方公共団体の執行機関又は職員に損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合において、当該普通地方公共団体がその長に対し当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起するときは、当該訴訟については、代表監査委員が当該普通地方公共団体を代表する。
第三章 地方公共団体の組合
第一節 総則
(組合の種類及び設置)
第二百八十四条 地方公共団体の組合は、一部事務組合及び広域連合とする。
2 普通地方公共団体及び特別区は、その事務の一部を共同処理するため、その協議により規約を定め、都道府県の加入するものにあつては総務大臣、その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て、一部事務組合を設けることができる。この場合において、一部事務組合内の地方公共団体につきその執行機関の権限に属する事項がなくなつたときは、その執行機関は、一部事務組合の成立と同時に消滅する。
3 普通地方公共団体及び特別区は、その事務で広域にわたり処理することが適当であると認めるものに関し、広域にわたる総合的な計画(以下「広域計画」という。)を作成し、その事務の管理及び執行について広域計画の実施のために必要な連絡調整を図り、並びにその事務の一部を広域にわたり総合的かつ計画的に処理するため、その協議により規約を定め、前項の例により、総務大臣又は都道府県知事の許可を得て、広域連合を設けることができる。この場合においては、同項後段の規定を準用する。
4 総務大臣は、前項の許可をしようとするときは、国の関係行政機関の長に協議しなければならない。
【出 典】 判例タイムズ717号101頁
一、甲町と乙町は、水防法3条の2の定めるところにより、地自法284条1項所定の一部事務組合である丙水防事務組合(以下、「訴外組合」という。)を設立している。 本件は、訴外組合を構成する甲町の住民であるXが、訴外組合が岐阜県知事、岐阜県土木部長らを接待するために催した宴会の費用合計金29万4972円を支払うため、訴外組合の管理者であるYが発した支出命令が違法であるとして、Yに対し、地自法242条の2第1項4号に基づき、右支出命令による公金支出によって訴外組合が被った損害の賠償を求める住民訴訟である。
本件の争点は、本件支出命令の適否、すなわち、本件接待が、訴外組合に許容された社交儀礼上相当な範囲を越え、社会理念上著しく妥当性を欠くものとみるべきか否かという点にあり、一、二審は、いずれも本件接待は社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとして、Xの請求を認容した。
本判決は、普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、許容されるものというべきであるが、それが右範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は右事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないものというべきであり、このことは、地自法284条1項所定の一部事務組合の管理者等の執行機関が行う接遇の場合であっても同様であると解した上、本件宴会による接待が行われるに至った経緯、本件宴会に要した費用の総額、また、これに相当高額な芸妓花代も含まれていること、更には、二次会で遊興した費用までも訴外組合において負担していることなどの諸点に照らすと、本件宴会による接待は、訴外組合がその事務を遂行する過程で、社交儀礼の範囲にとどまる程度の接待を行ったという態様・内容のものであるとはいい難く、これを客観的にみて、岐阜県当局者に対する宴会による接待それ自体を主たる目的とするものとみられてもやむをえない態様・内容のものであって、訴外組合が行う接待として社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるをえないとし、本件宴会に要した費用を訴外組合が負担し、これを訴外組合の公金により支出することは許されないから、訴外組合の管理者であるYが、本件宴会を主催し、これに要した費用を支払うため本件支出命令を発したことは、違法である、と判示して原審の判断を是認し、Yの上告を棄却した。
二、地自法242条にいう「違法な公金の支出」とは、法令の規定又は議会の議決に違反する支出をいうとされており、また、同法232条1項は、普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費を支弁する旨を定めているので、これらの規定が準用される本件においては、訴外組合が県知事等を宴会接待することが、訴外組合の事務に含まれるかという点が問題である。
この点に関しては、従来の裁判例は、一般に、地方公共団体が社会通念上相当と認められる範囲内の接待をすることは許されると解している(名古屋地判昭46・12・24行裁集22巻11号2058頁、名古屋高判昭50・2・10行裁集26巻2号155頁、千葉地判昭58・2・18判時1084号61頁、東京高判昭62・6・29判例自治32号7頁、最2小判昭63・11・25本誌685号143頁、判時1298号109頁、本件の一、二審判決も同様に解している。)。 三、本判決が公費接待の適否の判断基準として採用した見解は、社会通念上儀礼の範囲内のものであるか否かというものであり、従来の裁判例の見解と異なるものではない。
もっとも、右判断基準が、当該自治体がその費用を負担すべき事務(地自232条1項、2条2項)の範囲に含まれるか否かを判断するためのものであることを明らかにした点が注目に値しよう。
そして、本判決は、(1)本件宴会による接待が行われるに至った経緯、(2)本件宴会に要した費用の総額、(3)右費用に相当高額な芸妓花代が含まれていること、(4)二次会で遊興した費用までも訴外組合において負担していることなどの諸点を考慮して、本件宴会接待は、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものと判示したものである。
公費接待を違法と判断した最高裁の先例としては、(最1小判昭61・3・13判例自治18号14頁)があるが、事案は、町長が区検察庁の副検事(町長の旧制中学の後輩)、事務官らと料亭で懇談会を開き、飲食した後の三次会で右副検事とスナックで飲食した代金1万2650円を町長交際費から支出したというものであり、右最判は、右三次会での飲食は、町長としての職務執行と全く関係がなく、副検事との私的な付き合いにほかならないから、右飲食費用を公金により支出することは許されないとした原審の判断を是認したものである。
したがって、右最判のケースは、いわゆる公費接待が問題とされる典型的な場合とは異なるものと評価しうるので、本判決が公費接待を違法とした最初のものということになろう。
なお、本件には、同種の関連事件があり、最3小判平1・10・3(公刊物未登載)は、公費による宴会接待を適法とした原審の判断を是認している。
本件と右別件の各接待の差異として指摘しうるのは、本件接待における芸妓花代が別件の約3倍と高額であること、本件の場合は、二次会としてバーで遊興した費用が含まれていることなどであるが、これらの点が考慮されたものであろうか。
本判決は、最高裁が、行き過ぎた公費接待を違法と判断した最初のものとして注目すべきものであり、今後の同種事案の指針となろう。
参考文献として、原田尚彦「宴会行政と住民訴訟」法セミ378号21頁、石津廣司「自治体における接待費支出について」地方財務385号173頁がある。