同一有価証券市場で約1時間内に接着して行われた変動操作により株価を変動させて株式を売り付けた3回の犯行(相場操縦等の罪の加重類型)につき,その必要的没収・追徴の対象を売り付け額の最大値を示した1回目の犯行の売却代金及びその余の2回の各犯行に係る売買差益分にとどめた事例
東京地方裁判所判決/平成21年(特わ)第2340号
平成22年4月28日
証券取引法違反被告事件
【判示事項】 同一有価証券市場で約1時間内に接着して行われた変動操作により株価を変動させて株式を売り付けた3回の犯行(相場操縦等の罪の加重類型)につき,その必要的没収・追徴の対象を売り付け額の最大値を示した1回目の犯行の売却代金及びその余の2回の各犯行に係る売買差益分にとどめた事例
【参照条文】 証券取引法(平18法65号改正前)197-1
証券取引法(平18法65号改正前)197-2
証券取引法(平18法65号改正前)159-2
証券取引法(平18法65号改正前)198の2
【掲載誌】 判例タイムズ1365号251頁
【評釈論文】 法律時報84巻13号370頁
主 文
被告人甲野一郎を懲役2年2月及び罰金250万円に,被告人乙山太郎を懲役2年及び罰金300万円に,被告人甲野二郎を懲役1年6月及び罰金150万円に処する。
被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
被告人らに対し,この裁判が確定した日から4年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。
被告人3名から金2億2661万9000円を追徴する。
(後略)
【解説】
1 事案の概要
本件は,被告人3名が,共謀の上,財産上の利益を得る目的で,東京証券取引所一部上場企業である2社の各株式の高値形成を図り,計3回にわたり,誘引目的で買い上がり買い付け及び見せ玉の大量発注の手段を用いて株価の変動操作を行って株価を上昇させ,その上昇させた株価により,上記2社の株式を売り付けたという事案である。
2 本件の争点
本件実行行為は,平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「証券取引法」という。)159条2項1号の変動操作の罪を犯して変動させた相場により株式を売り付けるという行為であり,変動操作等の罪の加重類型に当たる(同法197条2項)。被告人3名は,前記のとおり,3回にわたり,別個の変動操作と売り付け行為を行い,その都度,事前に「仕込み」として買い付けた株式,あるいは変動操作の期間中に買い上がり,買い注文の見せ玉の約定(成約)により買い付けた株式を売り付けており,これら3回の犯行により売り付けた株式の売却代金は総額4億2938万6000円であった。
検察官は,論告において,この額が証券取引法198条の2第1項1号の「犯罪行為により得た財産」に当たるとして,その全額を同条項に基づいて没収・追徴すべきであると主張した。これに対し,弁護人は,最終弁論で,前記売り付けの総額から当該株式の購入に要した資金に相当する価額をすべて控除した額,即ち,被告人らの実質的な利得額746万9500円に限定すベきである旨主張した。
3 本判決の判断
本判決は,売り付けた株式の売却代金全額が証券取引法198条の2第1項1号の「犯罪行為により得た財産」に当たることを認めた上で,本件各犯行が同一有価証券市場で約1時間のうちに接着して繰り返されたという犯行経過等を踏まえ,実質的には,最大値を示した1回目の犯行の売り付け額が本件の一連の不法な取引に投じられた金額の上限を画しており,その余の2回の各犯行に係る不法な取引については,上記売り付け額の枠内で,いわば1回目の犯行により不正性を帯びた資金が使い回されて収益(売買差益)を上げたという見方も成り立つとし,このような本件の具体的事情の下においては,検察官主張の金額を没収・追徴することは,本件訴因に即してみれば過酷であることは否めないとした。そして,1回目の犯行については,同法198条の2第1項本文により株式売却代金2億2285万4500円を,その余の2回の各犯行については,同項ただし書を適用して売買差益分である150万5000円及び225万9500円をそれぞれ没収・追徴の対象とし,合計で2億2661万9000円を追徴するとの判断を示した。