「保育所入所選考基準表」に基づく優先指数が劣後しているとしてされた保育所入所不承諾処分が適法であるとされた事例
東京地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第512号、平成19年(行ウ)第133号
平成19年11月9日
保育所入所不承諾処分取消請求事件(第1事件)、訴えの追加的併合申立事件(第2事件)
【判示事項】 「保育所入所選考基準表」に基づく優先指数が劣後しているとしてされた保育所入所不承諾処分が適法であるとされた事例
【様照条文】 児童福祉法24
児童福祉法施行令27
渋谷区保育の実施に関する条例(昭62渋谷区条例7号)2
【掲載誌】 判例タイムズ1279号132頁
LLI/DB 判例秘書登載
【解説】
1 本件は,裁定取引を主とする株式売買のトレーダーとして自宅において稼働していた原告(フランス人男性)が,処分行政庁に対し,原告の子であるAにつき,保育所ヘの入所申込みをしたところ,処分行政庁から,保育所入所を承諾しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告に対し,本件処分の取消しを求めるとともに,本件処分に至る被告の職員の対応により精神的損害を被ったとして,被告に対し,国家賠償を求めた事案である。
2 被告においては,保育所入所選考の基準として,「渋谷区保育の実施に関する要綱」が定められており,同要綱中の「保育所入所選考基準表」(以下「本件基準表」という。)等に基づいて優先指数が算定され,原則として優先指数の高い者から順次保育所の入所を承諾することとされていた。本件は,処分行政庁が,原告が本件基準表中の「内職及びこれに類する就労形態の者」に該当する者であることなどを前提に優先指数を算定し,本件処分をしたのに対し,原告が,本件基準表自体の不合理性を主張するとともに,本件基準表中の「自営をしている者」に該当する者であるなどと主張して,その優先指数を争ったものである。
これらの点につき,本判決は,児童福祉法24条3項にいう「公正な方法」とは,保育の必要性が高い児童から順次入所させるという方法であることを要するものと解するのが相当であるところ,保育所への入所を希望する児童の中から入所する児童を選考するに当たり,いかなる判断基準によるべきかという点については,市町村の合理的な裁量にゆだねられているというべきであって,当該市町村において,一定の判断基準を定め,当該判断基準に従って判断がされた場合においては,当該判断基準自体あるいは当該判断基準に基づく判断において,著しく不合理な点がある場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとして,当該判断が違法となるものと解するのが相当であると判示した。
そして,本判決は,まず,本件基準表には保育の必要性の優劣を判断する基準として不合理な点を見いだすことはできないから,本件基準表に基づいてされたことを理由に本件処分が違法であるということはできないと判示した。
次に,本判決は,原告が「内職及びこれに類する就労形態の者」に該当する者であるということはできず,「自営をしている者」に該当する者であるとしたものの,結局,Aの優先指数は,保育所入所内定者のうち優先指数が最低の者の優先指数に劣後しているから,処分行政庁の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用はないとして,本件処分が適法である旨判示した。