生産緑地法10条に規定する「主たる従事者」の要件
名古屋高等裁判所判決/平成13年(行コ)第30号
平成15年5月21日
相続税更正処分等取消請求控訴事件
【判示事項】 (1) 財産評価基本通達40-2(生産緑地の評価)の規定の合理性(原審判決引用)
(2) 本件生産緑地は、被相続人死亡時において、25年以上経過しないと市町村長に対して買取りの申出をすることができなかったものであるから、財産評価基本通達に従い、生産緑地でないものとして評価した価額から35%を控除した評価額をもって相続税を算定すべきとの納税者の主張が、生産緑地法10条は生産緑地にかかる主たる従事者が死亡した場合には、所有者は市町村長に対して時価による買取りの申出をすることができる旨規定し、財産評価基本通達40-2は、買取りの申出が可能な土地については、生産緑地でないものとして評価した価額から5%を控除して評価すると規定するところ、買取りの申出が可能であったか否かは、課税基準時において、被相続人が当該生産緑地に係る農林漁業に係る主たる従事者に該当するか否かによって決せられる問題であり、事後的、主観的、不確定的要素によって評価額が左右されるべきでないとして排斥された事例(原審判決引用)
(3) 生産緑地法10条に規定する「主たる従事者」の要件
(4) 生産緑地法10条に規定する「主たる従事者」の判断において考慮すべき要素
(5) 被相続人は、労働力の提供面において長年にわたり農作業に従事していたこと、経営的側面のうち、営農の基本方針の決定等において被相続人と控訴人のどちらが主導権を有していたか判然としない程度の役割を果たしていたこと及び資金や納税等の資本面において、基本的に被相続人の家計のみに依拠しており、利益や損失も被相続人に帰属していたものであること並びに被相続人が交通事故に遭って死亡するまでの期間は、約1年余という短い期間に過ぎないから、被相続人が長年にわたり農業経営に従事してきた実績に鑑みると、被相続人が交通事故にあってから死亡するまでの期間における農作業量の減少は、過渡的な現象であると評価すべきであり、相続開始時点において被相続人が主たる従事者に該当するかを判断する上でも、交通事故に遭うまでの農作業従事の実態を斟酌すべきものというべきであることから、相続開始時点において、残された従事者が従前と同じような態様で従事することによっては、農林漁業の経営を継続することが不可能となるような中心的役割を果たしていたと認めるのが相当であるとされた事例
(6) 「農林漁業経営が客観的に不可能となるような場合」には、労働力を提供する従事者が従事できなくなったために農林漁業経営が不可能となる場合のほか、経営面における従事者が従事できなくなったために経営が不可能となる場合もあり、建設省都市局長通達の「その者が従事できなくなったため」にいう従事できなくなった事項には、労働力提供の面と経営面の両方を含むものと解するのが相当であるとされた事例
(7) 資金や納税等の資本面における負担としては、農業経営のための経費の支出や農業所得にかかる税金等の支出が考えられ、これらの支出は、年間を通して見れば収入が支出を上回り最終的に利益によって填補されることによって具体的に損失を被るおそれがないことが見込まれるような場合であっても、支出の際には現実に負担しなければならないものであるから、主たる従事者に該当するかどうかの判断の要素の1つとするのに妨げはないというべきであるとされた事例
【判決要旨】 (1) 財産評価基本通達40-2(生産緑地の評価)の規定は、生産緑地としての拘束が長期間に及ぶほど、利用形態等の制約が大きくなると考えられることから、客観的交換価値もそれに応じて低下することを考慮したものであり(買取りの申出ができる土地についても、控除率が定められているが、実際に買取りが実現するまで、あるいは実現しないことが確定するまでに所要の手続や期間を要することが考慮されたものである。)、基本的に合理的なものと解される。
(2) 省略
(3) 生産緑地法10条に規定する「農林漁業の主たる従事者」は、建設省都市局長通達によれば、その者が従事できなくなったため、当該生産緑地における農林漁業経営が客観的に不可能となるような場合における当該者をいうとされているところ、上記通達にいう「農林漁業経営が客観的に不可能」とは、残された従事者が従前と同じような態様で農林漁業に従事することによっては、農林漁業の経営を継続することが不可能であることをいうと解すべきである。上記通達の「客観的に不可能」であるということを文字どおりに考えて、死亡した農林漁業の従事者が当該農林漁業の経営においていかに中心的な役割を果たしていたとしても、残されたその余の従事者が農林漁業労働者を雇ったり農林漁業経営の専門家から指導を受けて、農林漁業の経営を継続することができるような場合にも、農林漁業の経営の継続は「不可能」といえないとすると、従前の従事態様を変えさせてまで当該生産緑地の相続人に農林漁業経営の継続を強いることになり、妥当とはいえないから、生産緑地法10条の「主たる従事者」とは、その者が死亡した場合に、残された従事者が従前と同じような態様で従事することによっては、農林漁業の経営を継続することが不可能となるような中心的従事者をいうものと解するのが相当である。
(4) 生産緑地法10条に規定する主たる従事者の該当性を判断するに当たっては、現実の労働力の提供という要素だけに限定することなく、資本その他の経営面における要素をも総合考慮した上、残された従事者が従前と同じような態様で従事することによっては、農林漁業の経営を継続することが不可能となるような中心的役割を被相続人が果たしていたかどうかを判断するのが相当である。
(5)~(7) 省略
【掲載誌】 税務訴訟資料253号順号9350