高年齢者雇用安定法に反する定年年齢を定める就業規則の当該条項は,その部分において無効となり,その結果,当該事業主においては定年制の定めのない状態が生じると解せられるところ,同法の60歳定年延長にかかる雇用条件は,基本的には労使の交渉に委ねられるべき事柄であるが,就業規則等に旧定年以後の雇用条件について新たな定めがなされるまでの間は,特段の事情のないかぎり,従前の雇用条件が適用されるものと解するのが相当とされた例
福岡高等裁判所宮崎支部判決/平成16年(ネ)第234号、平成17年(ネ)第75号
平成17年11月30日
差額賃金等支払請求控訴事件、同付帯控訴事件
【判示事項】 1 高年齢者雇用安定法に反する定年年齢を定める就業規則の当該条項は,その部分において無効となり,その結果,当該事業主においては定年制の定めのない状態が生じると解せられるところ,同法の60歳定年延長にかかる雇用条件は,基本的には労使の交渉に委ねられるべき事柄であるが,就業規則等に旧定年以後の雇用条件について新たな定めがなされるまでの間は,特段の事情のないかぎり,従前の雇用条件が適用されるものと解するのが相当とされた例
2 58歳から60歳への本件定年延長に伴い新設された,58歳以上の職員の基本給を1律30%減額する旨の専任職規程が雇用条件の不利益変更に当たるとされ,①当該変更には高度の必要性が認められるものの,②賃金等への影響が極めて大きく,③1審被告Yは高年齢者雇用安定法施行後も定年制の定めがない状態を放置し,1審原告Xの定年直前に性急に本件専任職規程導入に踏み切ったものであり,④経過措置や代償措置もなく,さらに⑤従業員代表としての総務課長の意見は職員全体の意向を踏まえて意見を述べたものとは認められず,以上を総合すれば,本件専任職規程の新設は専ら高年層職員に対して大きな不利益を与えるものであって,高度の必要性に基づいた合理的な内容のものとは認められず,Xに対し効力を及ぼさないとして,同旨の1審判決が維持され,Yの控訴が棄却された例
3 専任職規程の新設によって雇用保険受給権を侵害されたとして,本来支給されるべき雇用保険金とすでに支給された金額との差額分相当の支払いが命じられた例
4 就業規則上の定期昇給規定および当該年度の定昇実績から,本件専任職規程の適用がなければ当該年度の昇給があったと認めるのが相当とされ,これを否定した1審判決が変更された例
5 Xの専任職期間中の賃金(基本給と休日割増賃金)および賞与,退職金につき,昇給込みの基本給の本来支給額により算出した賃金額と,賃金減額条項に基づく既払賃金額との差額請求が認められた例
【掲載誌】 労働判例953号71頁