抗告人らが船舶の所有者等の責任の制限に関する法律95条所定の船舶先取特権に基づき貨物船の船舶競売を申し立てた事案において、船舶先取特権の存在を証する文書の提出がないとして当該申立てを却下した原決定が維持された事例
東京高等裁判所決定/平成21年(ラ)第1016号
平成21年8月6日
船舶競売申立却下決定に対する執行抗告事件
【判示事項】 抗告人らが船舶の所有者等の責任の制限に関する法律95条所定の船舶先取特権に基づき貨物船の船舶競売を申し立てた事案において、船舶先取特権の存在を証する文書の提出がないとして当該申立てを却下した原決定が維持された事例
【判決要旨】 1 原決定の認定によれば、本件貨物船の1等航海士は、同船と本件漁船がほとんど真向かいに行き会う状況になった時点で、海上衝突予防法14条1項本文に従い、進路を右転させ、法規に従った行動を取っており、他方、証拠によれば、本件漁船が法規に従って右転せず、かえって左側に進行し、本件貨物船から疑問信号が発せられていたのであるから、本件漁船はこれに気付いて進路を変えるべきであったのに、本件貨物船の前を突っ切るように進行して衝突に至った経緯が認められ、同航海士において、上記のような本件漁船の法規違反の行動を予測して、本件貨物船が減速すべき義務があったとまで直ちに認めることは困難である。
2 また、当審で追加された証拠資料を併せて検討しても、本件事故当時における本件貨物船と本件漁船の位置関係、航行経路、それぞれの航行速度、制動距離等は必ずしも明らかではなく、したがって、同航海士が本件貨物船を減速させていれば、本件事故を回避できたとまでは認めることができず、同航海士が上記減速の措置を取らなかったことと本件事故との間に因果関係があったと認めることもできない。
3 本件申立ては、疎明資料による仮の処分ではなく、船舶の競売という強制執行であり、それにより相手方が被る影響はきわめて重大であるところ、本件に現れた証拠資料からは、上記のとおり認定判断するほかなく、相手方の反論や反対証拠の提出がない本件申立事件の手続の中で、抗告人らが提出している証拠資料のみから抗告人らの主張する過失の存在を認めるのは困難であると言わざるを得ない。
【参照条文】 民事執行法181-1
民事執行法189
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律95
【掲載誌】 金融法務事情1896号96頁