不正作出支払用カード電磁的記録供用・詐欺の犯行に使用された偽造クレジットカードが犯罪組織から渡されたものであっても,偽造部分が付加された,元の生のプラスチックカードの部分を犯行供用物件として刑法第19条により没収するには第三者没収の手続を要しないと判示した事例
東京高等裁判所/平成19年(う)第429号
平成19年5月16日
不正作出支払用カード電磁的記録供用,詐欺,不正作出支払用カード電磁的記録供用未遂,詐欺未遂被告事件
【判示事項】 不正作出支払用カード電磁的記録供用・詐欺の犯行に使用された偽造クレジットカードが犯罪組織から渡されたものであっても,偽造部分が付加された,元の生のプラスチックカードの部分を犯行供用物件として刑法第19条により没収するには第三者没収の手続を要しないと判示した事例
【判決要旨】 被告人は,報酬を得る目的で,犯罪組織から偽造クレジットカードを渡され,商品詐欺の実行役(買い子)として犯行に加わった者であり,本件の背後には,クレジットカードの偽造という,電子機器についてのある程度高度な知識と技術を待った犯罪者集団(背後者)の関与がうかがえ,被告人が背後者から受け取った偽造カードは背後者の所有に属するか,その可能性があったことは否定されない。
しかし,偽造カードの偽造部分は,何人の所有も許さない物であるから,問題となるのは偽造部分が付加された元の生カードであるが,本来的には背後者に帰属する偽造カードであっても,それを用いて犯罪行為に出ているような場合には,刑事手続上は,偽造カードの所有・管理権も被告人に1時的に移転する形態であったとの認定が可能であり,被告人以外の物に属さない物として没収が可能であるから,第三者没収手続は不要である。
なお,背後者が訴因上も原判決の罪となるべき事実の摘示上も明示されてはいないものの,共同正犯者,少なくとも教唆者として,刑法第19条第2項本文にいう「犯人」に当たると考えることも可能であり,その場合には,第三者没収手続は必要となる。
本件では,検察官が第三者所有物の没収に必要な公告を行い,求刑においても第三者没収の求刑である旨を明示しているから,原審は,第三者没収手続が行われた意味を明確にしておくのが望ましかった。
【参照条文】 刑法163の2-2
刑法19
刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法2
【掲載誌】 高等裁判所刑事裁判速報集平成19年228頁