共有物たる犯罪貨物につき、第三者に対し、告知・弁解・防禦の機会を与えなかったとして、没収処分が違 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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共有物たる犯罪貨物につき、第三者に対し、告知・弁解・防禦の機会を与えなかったとして、没収処分が違憲とされた事例

 

最高裁判所大法廷/昭和37年(あ)第937号

昭和41年5月18日

関税法違反被告事件

【判示事項】    共有物たる犯罪貨物につき、第三者に対し、告知・弁解・防禦の機会を与えなかったとして、没収処分が違憲とされた事例

【判決要旨】     原判決の認定するところによれば、「右時計の密輸入はA公司の事業にかかり、同公司は会社としては未登記であるが、資本金は千万円であつて、その本店は香港にあり、社長はB、C支店長にD、同副支店長に被告人E、経理係に被告人F、同支店顧問にGが夫々就任し、被告人Eも百5十万円、同Fも7十万円、Gは百8十万円出資している」とされ、記録によれば起訴のなかつたDも、明示的には共犯者とされていない公訴外Bも出資者であることが窺われる。

          右の事実関係によれば、原判決が没収の言渡をなした右時計700個は、被告人Eを始めとするA公司の出資者全員の共有に属するものと認むべきところ、原審はその没収をするに当り公訴外共有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えていないことが記録により明らかであり、右没収処分が憲法第31条、第29条に違反して許されないことは、当裁判所大法廷判例(昭和30年(あ)第995号同37年11月28日判決、刑集16巻11号1577頁)の示すとおりである。従つて原判決は、この点において破棄を免れない。

(裁判官田中二郎の意見)

          多数意見のように、A公司が法人格を有しないからといつて、直ちに、本件時計700個が同公司の出資者全員の共有に属するものと解するのは論理の飛躍であり、また、かりに右時計がA公司の出資者全員の共同所有に属することを否定し得ないとしても、その共同所有の法的形態をどう理解すべきかについては疑問の余地があるのであつて、それは、多数意見の認めるような共有ではなく、むしろいわゆる合有の1種とみるべきものと解する。そして、本件没収処分をなすに当つては、同公司のわが国における代表者に告知、弁解、防禦の機会を与えることを要し、かつ、これをもつて足りると解すべきである。(昭和38年(あ)第233号同40年4月28日大法廷判決、刑集19巻3号300頁参照)従つて、原判決には、本件没収の要件事実について、審理不尽の違法があることに帰し、原判決は、この点において破棄を免れない。

【参照条文】    関税法(昭和29年4月2日法律第61号による改正前のもの)83-1

          刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法(昭和38年法律第138号)3-1

【掲載誌】     最高裁判所裁判集刑事159号733頁

          判例時報445号15頁