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本件は,鳥取県東伯郡a町b地区の住民等によって構成される権利能力なき団体である被控訴人が,控訴人に対し,被控訴人と控訴人の前身である動力炉・核燃料開発事業団との間で平成2年8月31日に締結された協定に基づき,同地区内の土地上に存在するウラン鉱帯にかかる堆積残土の撤去を求めた事案である。

 

広島高等裁判所松江支部/平成14年(ネ)第78号

平成16年2月27日

ウラン残土撤去請求控訴事件

【判示事項】     1 本件は,鳥取県東伯郡a町b地区の住民等によって構成される権利能力なき団体である被控訴人が,控訴人に対し,被控訴人と控訴人の前身である動力炉・核燃料開発事業団との間で平成2年8月31日に締結された協定に基づき,同地区内の土地上に存在するウラン鉱帯にかかる堆積残土の撤去を求めた事案である。

 上記協定にかかる「ウラン残土の撤去に関する協定書」(以下「本件協定書」という。)11項には,「ウラン残土の撤去は,関係自治体の協力を得て,米,梨の収穫期までに着手し,当協定書(覚書,確認書を含む。)を遵守の上,一日も早く完了するものとする」と定められていた。

2 原審は,本件協定書11項の合意は,控訴人が主張するような停止条件を定めたものではなく,控訴人のウラン残土撤去義務に付された不確定期限であると解した上,同合意にいう「関係自治体の協力を得る」ことは,本件協定締結の日から10年を経過した時点においては最早不可能となったと考えるのが社会通念上相当であるとし,控訴人の本件ウラン残土撤去義務はすでに履行期が到来したと判断して,被控訴人の請求を認容した。

3 被控訴人は,控訴理由として,要旨次のとおり主張した。

            (1) 本件協定書11項にいう「関係自治体の協力を得る」につき,いずれは岡山県の同意が得られるであろうとの認識が当事者間にあったとしても,それはあくまでも主観的な期待に過ぎず,将来岡山県の同意が得られることが確実であるとの共通認識が当事者にあったのではないから,同文言は,停止条件を定めたものと解すべきところ,その条件は,控訴人の努力にもかかわらず未だ成就していない。

            (2) 控訴人は,本件協定書により,関係自治体の協力を得て撤去先を特定した上,撤去することとして関係自治体への協力要請を続けてきたところであるが,撤去先も決まらないまま本件ウラン残土の撤去を訴求することは信義則に反する。

            (3) また,本件ウラン残土の管理は適正で,周囲環境への安全は確認されているところ,控訴人が提示した和解案は,本件ウラン残土を撤去したと同等の良好な状態を実現できるものであるにもかかわらず,被控訴人において頑なにこれを拒絶し,撤去先が決まらないのに本件ウラン残土の撤去を無条件に訴求することは権利の濫用であって許されない。

4 控訴審は,要旨次のとおり判示して,控訴を棄却した。

            (1) 本件協定書の条項の体裁及び文言(ウラン残土を撤去するに際しての運搬方法や費用負担等,動燃による撤去義務履行に際してのある程度具体的な事項までが盛り込まれていること,米,梨等の収穫期までに着手し,一日も早く完了するといった記載もあること)並びに撤去時期の定め方を中心とした双方の交渉経緯等を総合すると,動燃及び対策会議としては,当時,本件ウラン残土の搬入先として想定されていた動燃人形峠の所在する岡山県が受入れに難色を示していたことから,速やかに同県の同意を得てウラン残土を撤去することは困難な状況にあるが,いずれは岡山県側との交渉によってウラン残土の搬入受入れの同意が得られるであろうとの共通認識のもとに,ウラン残土撤去義務の履行期を岡山県等関係自治体の協力(同意)が得られたときと定め,仮に,この協力(同意)が得られない場合には,相当の期間の経過により,同撤去義務の履行期が到来するという不確定期限を定めたものと解するのを相当である。

            (2) そして,動燃側の働きかけにもかかわらず,結果として,岡山県等関係自治体の協力(同意)は得られておらず,これを得られる見込みがあるともいえない状況に至っており,本件協定締結時点では,撤去作業は1年以内にも着手することが念頭にあったことも考慮すると,同協定締結後10年を経過した時点では,本件協定書11項により定められたと解される相当期間は経過したものというほかないのであって,控訴人のウラン残土撤去義務の履行時期は既に到来しているというべきである。

            (3) 被控訴人は,控訴人に対し本件協定に基づくウラン残土の撤去請求権を有しているのであり,同請求権の履行期は既に到来しているのであるから,関係自治体に対する働きかけや和解を巡る経緯等,控訴人主張事実を斟酌しても,本件請求が信義則に反し,あるいは権利の濫用にあたるということはできない。控訴人は,同義務の履行は不能を強いるものであると主張するが,その履行が法的ないし社会通念上不能であるとは認め難く採用できない。

【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載