船員の雇用を保護するために,船員法43条1項および2項が,船舶の譲渡に伴って譲渡人と船員との雇入 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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船員の雇用を保護するために,船員法43条1項および2項が,船舶の譲渡に伴って譲渡人と船員との雇入契約が終了し,同契約が譲受人に承継されるという趣旨は合理的

 

東京高等裁判所判決/平成29年(ネ)第3951号、平成29年(ネ)第5299号、平成29年(ネ)第5333号

平成30年4月25日

地位確認等請求控訴事件、各民訴法260条2項各申立事件

【判示事項】    1 本件船舶の借入人および所有者の変更により,控訴人兼被控訴人(一審被告)Y1社と被控訴人兼控訴人(一審原告)X1らとの雇入契約は,船員法43条1項によって終了し,同条2項によりX1らと被控訴人兼控訴人(一審被告)Y4社との間に従前の労働条件と同一条件の雇入契約が存するとみなされるとした一審判断が維持された例

2 船員の雇用を保護するために,船員法43条1項および2項が,船舶の譲渡に伴って譲渡人と船員との雇入契約が終了し,同契約が譲受人に承継されるという趣旨は合理的であって,船員の雇用保護の必要性は,必ずしも長距離を移動する船舶の船員に限られるものではなく,移動する距離の長短のみと相関関係にあると認めるに足りる証拠もない以上,移動する距離の長短を問わず同条項を適用し,これに伴って営業の自由および採用の自由が一部制約されるとしても,公共の福祉に基づく合理的な制約として立法裁量の範囲内にあるというべきであるから,本件において船員法43条1項および2項を適用することが営業の自由および採用の自由を不当に制約し,憲法22条1項および29条に反するということはできないとした一審判断が維持された例

3 X1らが,船員法43条2項により従前と同一条件の雇入契約が存するものとみなされるY4社に対し,未払賃金として請求できるのは,労働実態等に照らしてY1社との雇用契約上確実に支給されたであろう賃金であるとして,基本給に加えて,各時間外手当,有休食料金,課税食料金もX1らが確実に支給されたであろう賃金と認めるのが相当であるとして,一審判断が一部変更された例

4 定期昇給および定期昇進等を見込んだ未払賃金請求について,Y1社と被控訴人兼控訴人(一審原告)X労組との労働協約の内容で確実に支給されるものとまでは認めることはできないというべきであるとされた例

5 Y1社がX1らに対し,Y1社からY4社への本件事業譲渡および従業員の移籍に関する一体的なスキームの一環として支払われた割増退職金を支払わなかったことは,X1らがX労組に加入していることの故をもって,X1らに経済的な不利益を課す不利益取扱い(労組法7条1号)に該当し,民法709条の不法行為に該当するとした一審判断が維持された例

【掲載誌】     労働判例1193号5頁