数学教師であるXの問題行動によって学校業務に具体的な停滞や信用の失墜が生じたとまではいえないこと,Xの担当する数学の授業や部活動において具体的に不適切な指導があったとまではいえないことを考慮してもなお,Xには,就業規則76条3号所定の「勤務状態が著しく不良で,学園の職員として勤務するには不適当」に該当する事由があるというべきであり,本件解雇には,客観的合理的な事由があると認められ,注意・指導が繰り返されてきたにもかかわらず2年4か月にわたって改善がみられなかったことや,教師という職種上,事務職等に配転して雇用を継続することは現実的ではないこと等に鑑みれば,Xが懲戒処分に付されたことがないことを勘案しても,解雇は過酷に失するとはいえず,本件解雇には社会的相当性があるとして,解雇を無効とした1審判決が取り消された例
東京高等裁判所判決/平成29年(ネ)第2108号
平成29年10月18日
地位確認等請求控訴事件
【判示事項】 1 就業規則所定の即時解雇事由としての「採用に関し提出する書類に重大な虚偽の申告があったとき」とは,今後の雇用契約の継続を不可能とするほどに,控訴人兼被控訴人(1審被告)Y法人との信頼関係を大きく破壊するに足る重大な経歴を詐称した場合に限られ,数学教師である被控訴人兼控訴人(1審原告)Xがその履歴書において客観的には一部事実と異なる経歴を記載していたとしても,解雇事由に該当するとはいえないとした1審判断が維持された例
3 就業規則の定め方から,Y法人がその職員に対して支払う給与自体は,1日最大8時間,1週最大40時間という法定労働時間に対する対価として支払われるものであることを明記し,その所定労働時間が,最大で法定労働時間と同1の時間となるまでに拡大されることがあったとしても,法定労働時間内の労務提供に対しては,既払いの給与以外の賃金は支払わないことを予定していると解されるとして,Xによる法内残業に対する残業代の支払請求は理由がないとした1審判断が維持された例
4 始業時刻前の早出残業については,部活動として学校に朝練習の届け出をしている日やX作成の日記に朝練習をした記載がある日については午前7時30分以降の早出残業を認め,終業時刻については,週番日誌に部活動が記録されている場合には,当該部員の下校時刻を原則として終業時刻とするが,それよりも本件日記における退勤時間が遅い場合には,本件日記の記載内容自体から,当該残業の内容その他の残業理由が分かる記載がある場合,あるいは各種会議等の業務が実施されたと認められる場合には,本件日記の退勤時刻を終業時刻とするという基準により,Xの残業代の合計元本額を算出すべきとした1審判断が維持された例
5 Y法人がXに対する残業代債務として弁済供託した額は,未払残業代計算によって得られた金額より多額なものであるから,Xの残業代債権はその全額が消滅したものというべきであるとした1審判断が維持された例
【掲載誌】 労働判例1176号18頁
【評釈論文】 法学セミナー64巻2号131頁