小規模会社の専務取締役であったKについて,取締役の名称は名目的に付されたものにすぎず,営業社員として労務提供すべき雇用契約の域を出ないもので,会社が安全配慮義務を負担すべき地位にあったとされた例
大阪高等裁判所判決/平成18年(ネ)第1417号
平成19年1月18日
損害賠償請求控訴事件
おかざき事件
【判示事項】 1 小規模会社の専務取締役であったKについて,取締役の名称は名目的に付されたものにすぎず,営業社員として労務提供すべき雇用契約の域を出ないもので,会社が安全配慮義務を負担すべき地位にあったとされた例
2 Kの死亡と業務との間の相当因果関係が認められ,会社としては,Kの健康状態にかんがみ,勤務時間を適切に管理し,業務負担を軽減して,同人の生命,健康被害の危険を防止する安全配慮義務があったのに,これに違背(放置)したとして,会社に損害賠償責任が認められた例
3 Kの死亡につき,代表取締役Y2に対しても,安全配慮義務の履行に関する任務懈怠があったとして,旧商法266条の3に基づき,会社と同1の損害賠償責任が認められた例
4 損害賠償額の算定につき,Kの本態性高血圧により3割の素因減額が相当とされた例
5 労災保険金の損益相殺につき,本件高裁判決(平19.1.18)には法令に違反する誤りがあるとして,民訴法256条1項に基づく変更の判決(平19.1.23)がなされた例
【掲載誌】 金融・商事判例1289号31頁
判例時報1980号74頁
労働判例940号58頁
【解説】
(1)事件の概要 個人商店を前身とする小規模会社Y1社の従業員兼務取締役であり,中程度の高血圧と診断されていたKは,地方出張を行っていた際に,投宿先で就寝中に急性循環不全で死亡した。これに対して,Kの妻X1,子X2,X3(以下「X1ら」)が,Kの死亡は,Y1社およびその代表取締役である被告Y2の安全配慮義務違反によるものであるとして,Y1社,Y2(以下「Y1社ら」)に対して損害賠償の支払いを求めた。
なお,X1は,Kの死亡は業務上の事由によるものであるとして,労災保険法上の諸給付を請求したが,Kは労基法上の労働者とは認められないとされ不支給決定を受けたので,その取消しを求めて別件訴訟を提起していた。この訴訟については,Kは労働基準法上の労働者に当たるとして,処分を取り消す旨の判決が出され(上記・大阪中央労基署長〔おかざき〕事件),これが確定したのを受けて,平成16年8月18日,所轄労基署長は,Kの労働者性を認め,業務上災害の認定をしている。