債務者が性同一性障害者である債権者に対してなした懲戒解雇につき,解雇理由としてあげられた①配転命令拒否,②配転命令後の業務の引継ぎを怠ったこと,③社用パソコンを使用して私的に開設したホームページに誹謗中傷または業務上の機密を漏洩する記事を書き込んだこと,④女性の服装,容姿で出勤しないよう命じた業務命令に従わなかったこと,がいずれも懲戒解雇事由に該当せず,または懲戒解雇としての相当性が認められず,権利の濫用として無効とされた例
東京地方裁判所決定/平成14年(ヨ)第21038号
平成14年6月20日
懲戒処分禁止等仮処分申立事件
【判示事項】 1 債務者が性同一性障害者である債権者に対してなした懲戒解雇につき,解雇理由としてあげられた①配転命令拒否,②配転命令後の業務の引継ぎを怠ったこと,③社用パソコンを使用して私的に開設したホームページに誹謗中傷または業務上の機密を漏洩する記事を書き込んだこと,④女性の服装,容姿で出勤しないよう命じた業務命令に従わなかったこと,がいずれも懲戒解雇事由に該当せず,または懲戒解雇としての相当性が認められず,権利の濫用として無効とされた例
2 服務命令に違反して女性の容姿をして出勤した債権者の行為は,就業規則所定の懲戒解雇事由に当たり得るが,債務者に,債権者の性同一性障害の事情を理解し,その申出に関する自らの意向を反映させようとする姿勢が欠けていたこと,女性の容姿での就労を認めることが,企業秩序または業務遂行に著しい支障を来すと認めるに足る疎明がないこと,等の事情に照らせば,懲戒解雇に相当するまでの重大かつ悪質な企業秩序違反と認めることはできないとされた例
3 債権者の地位保全等の仮処分申立てに対し,被保全権利として1年間にわたる賃金仮払いの必要性が認められた例(地位保全は却下)
【掲載誌】 労働判例830号13頁
主 文
1 債務者は,債権者に対し,22万円及び平成14年6月から平成15年4月まで毎月25日限り月額22万円を仮に支払え。
2 債権者のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は債務者の負担とする。
【解説】
(1) 事件の概容 債権者(X)は,平成9年債務者(Y)に雇用され,本社調査部に勤務していたが,12年に性同一性障害の診断を受けカウンセリングを受け始め,13年には家裁で女性名への改名を認められた。14年1月,Yから製作部製作課ヘの配置転換を内示され,配転承諾の条件として1「女性の服装で勤務する」,(2)「女性用トイレの使用」,(3)「女性更衣室の使用」を申し出た。Yがこれを認めず2月に配転を命じたところ,Yは出社せず,辞令を破棄,返送した。Xは,3月4日女性の服装,化粧等をして出勤したが,Yは同5~8日の各日これを禁止する服務命令を発し,自宅待機を命じ,同8日には懲戒処分を検討している旨通知し,同11日に弁明聴取をした。その後,Xは4月17日まで出勤したが,就労はしなかった。Yは,4月17日,聴聞手続きを経て,Xを上記の理由により懲戒解雇の告知をした。
Xは,3月12日懲戒処分等差止めを求め,本件懲戒解雇後に地位保全および賃金,賞与の仮払い請求の仮処分を申し立てた。