小規模個人再生の手続開始後,再生債権者は再生手続外で詐害行為取消権を行使することはできないとした事例
東京高等裁判所判決/平成22年(ネ)第5307号
平成22年12月22日
詐害行為取消等請求控訴事件
【判示事項】 小規模個人再生の手続開始後,再生債権者は再生手続外で詐害行為取消権を行使することはできないとした事例
【参照条文】 民事再生法85-1
民事再生法238
民事再生法40の2
【掲載誌】 判例タイムズ1348号243頁
【解説】
1 事案の概要
本件は,控訴人に対し連帯保証債務を負担していた者が,その所有する不動産を子である被控訴人に贈与した後,小規模個人再生の申立てをしてその開始決定を受けたところ,控訴人が,詐害行為取消権に基づき当該贈与の取消し等を求め,原審が被控訴人に詐害の認識が認められないとして控訴人の請求を棄却する判決をしたのに対し,控訴人が不服として控訴した事案である。
2 裁判所の判断
小規模個人再生による再生手続でも,通常の再生手続と同様に,再生手続開始の決定があったときは,原則として,再生計画の定めるところによらなければ,再生債権について,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができず(民事再生法85条1項),その有する再生債権をもって再生手続に参加することにより(同法86条1項)権利実現を図ることになるものであり,再生手続が開始された後は,債権者間の公平を図るために,再生債権の個別的な権利行使は許されないものとして,債権者が再生手続外で別途,詐害行為取消権を行使することはできないと解するのが相当である旨判示して控訴を棄却した。
3 本判決の意義等
(1) 問題の所在
通常の再生手続では,再生手続開始の決定があったときは,再生債務者の財産関係の訴訟手続のうち再生債権に関するものは中断し(民事再生法〔以下「法」という。〕40条1項),さらに,再生債権者の提起した債権者代位訴訟(民法423条)や詐害行為取消訴訟(同法424条)に係る訴訟手続も中断する(法40条の2第1項)。
これに対し,個人再生手続の開始時点で再生債権に関する訴訟手続が係属中であっても,その訴訟手続は中断しない(法238条による40条及び40条の2の適用除外)。個人再生手続における再生債権については,同手続内で実体的に確定する手続がないため,訴訟を継続する必要があるからである(再生債権の評価手続は,議決権や最低弁済額の算定の基礎となる再生債権等を個人再生手続内で確定させるにとどまる。)。なお,債権者代位訴訟は適用除外の対象とされておらず,法40条の2により中断する。これは,再生債権者は,再生手続開始後,再生計画の定めるところによらなければ弁済を受けることができず(法85条1項),当該被代位債権の処分権限を喪失するためであると解される。
このように,個人再生手続では,係属中の詐害行為取消訴訟は中断しないことから,再生債権者がそのまま訴訟を追行することになるが,他方,再生手続開始後に再生債権者が新たに詐害行為取消訴訟を提起することの可否については,直接言及した規定はなく,問題となるところである。
(2) 本判決の意義
① 本判決は,かかる論点につき,法85条1項及び86条1項の各規定を挙げ,再生手続が開始された後は,債権者間の公平を図るために,再生債権の個別的な権利行使は許されないものとして,債権者が再生手続外で別途,詐害行為取消権を行使することはできないとした。これは,法85条や86条,39条(再生手続開始後は破産手続開始や強制執行等の申立てができないこと,既にされている破産手続や強制執行等の手続の中止等)等の規定に現れている再生債権の個別的な権利行使の禁止の原則により,再生手続外での再生債権に基づく詐害行為取消権の行使は実体法上許されないと解したものと考えられる。
② また,本判決は,個人再生に特有の制度として,否認権制度の適用が除外されていることや,上記のとおり再生手続開始時に係属している詐害行為取消訴訟の中断に係る規定も適用が除外されていることが,上記論点の結論に影響を及ぼすかについても検討を加えている。すなわち,個人再生手続では,個人債務者の簡易迅速な経済的再生を実現するという目的から否認権制度は採用していないが,再生手続開始申立ての棄却,再生手続廃止,再生計画不認可とするなど,債権者の利益を保護する手続的保障があり,債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は認められず,また,詐害行為取消訴訟の中断規定も,否認権制度が採用されていない個人再生では訴訟受継の問題が生じないために適用が除外されたものと解し,再生手続開始後に詐害行為取消権を行使することはできないとの結論の妨げとなるものではないとしている。