市議会議員で,市長選挙に立候補して市長に当選した被告人が,災害時の給水設備である浄水プラントの学校への設置やその設置契約の請託を受けるなどして,現金を受け取った受託収賄,事前収賄,あっせん利得処罰法違反の事件で,原審の無罪判決に対し,控訴した事案。
名古屋高等裁判所判決/平成27年(う)第131号
平成28年11月28日
受託収賄,事前収賄,公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
【判示事項】 市議会議員で,市長選挙に立候補して市長に当選した被告人が,災害時の給水設備である浄水プラントの学校への設置やその設置契約の請託を受けるなどして,現金を受け取った受託収賄,事前収賄,あっせん利得処罰法違反の事件で,原審の無罪判決に対し,控訴した事案。
控訴審は,業者の代表者等の供述は信用することができるとして現金授受の存在を認め,請託を受けて,被告人が市の防災安全課の職員に資料を手渡し,市議会で浄水プラントの導入を促す質疑・発言をしたのは「権限に基づく影響力を行使した」ものと認定し,無罪とした原判決を破棄し,懲役1年6月,執行猶予3年に処した事例
【判決要旨】 1 原判決が「核心的場面について具体的で臨場感を伴う供述がなされていない」と指摘する各点は,いずれも,それぞれの具体的な状況を考えれば,信用性に関わるような問題とはいい難く,贈賄者N証言の信用性を失わせるものではない。原判決のこれらの点についての指摘は,供述の信用性判断における経験則に反しているといわざるを得ず,是認できない。
原判決が指摘するNの供述経過に関する疑義(各現金授受に関連しないものも多い。)も,通常の記憶の減退,又は記憶の喚起の過程として十分説明ができる事柄であり,Nが虚偽供述を作り上げていく過程ではないかと疑われる事情と評価すべきものはない。供述経過の点を,N証言の信用性を否定する理由として用いるのは,供述の信用性判断における論理則,経験則に反しており,是認できない。
Nが,自らの融資詐欺に対する捜査や起訴が進むのを嫌って,捜査機関の目をそらすために,あるいは,検察官等から自己の融資詐欺等の事件処理や求刑に手心を加えるなどの優遇等を期待して,本件を話し出したという可能性は否定できないものの,そのことからN証言が虚偽であると推認されることはなく,虚偽だとするとかえって説明困難な点が存在するといわざるを得ない。
2 N証言は,具体的かつ詳細で,その内容に特に不合理な点は見当たらず,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,各現金授受と関係する情況証拠とも整合的であり,N証言等により認められる捜査段階の供述経過に照らしても,自己の記憶に従って供述したものと認められる。原判決は,Nのような会社経営の経験があり,金融機関に対する数億円の融資詐欺を行うことができる能力を有する者がその気になれば,内容の真偽にかかわらず,法廷で具体的かつ詳細な体裁を整えた供述をすることは困難ではないこと,原審証人尋問に臨むに当たり検察官との間で相当入念な打合せをしていることから,客観的資料と矛盾なく,具体的かつ詳細で,不自然かつ不合理な点がない供述となるのは自然であるという。しかし,原判決のこの指摘は今や受け容れ難い。多額の融資詐欺を行ったNであっても,常に虚偽を述べるとは限らないし,関係する諸事実と整合的に虚偽の話を作り上げるのは相当困難であろう。
N証言の信用性を否定し,各現金授受の存在は認められないとした原判決には,事実認定上,とりわけ証拠評価の上での論理則,経験則等に照らして不合理で是認し難い誤りがあるといわざるを得ない。
【参照条文】 刑法197-1後段
刑法197-2
公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1-1
【掲載誌】 高等裁判所刑事裁判速報集平成28年223頁
判例時報2366号55頁