東京地方裁判所判決/平成18年(ワ)第2001号、平成18年(ワ)第15394号、平成18年(ワ)第16906号
平成19年3月26日
各地位確認請求事件
【判示事項】 1 将来の地位確認請求に確認の利益があるか(積極)
2 職種限定契約が認められるか(積極)
3 職種限定契約が肯定される場合において、他職種へ職種変更することについて正当性があるか(消極)
【参照条文】 民事訴訟法134
労働基準法2章
【掲載誌】 判例タイムズ1238号130頁
判例時報1965号3頁
労働判例941号33頁
【解説】
1 本件事案の概要は次のとおりである。Yは,損害保険業等を目的とする株式会社であり,Xら46名は,いずれもYにおいて損害保険の契約募集等に従事する外勤の正規従業員である「契約係社員」の地位にある者である(Yにおいては,契約係社員を「リスクアドバイザー」あるいは「RA」と呼称しているので,以下,契約係社員を「RA」,契約係社員の制度を「RA制度」という)。Yは,平成17年10月7日,Xらに対し,①RA制度を平成19年7月までに廃止し,②RAの処遇については,代理店開業を前提に退職の募集を行う一方,継続雇用を希望する者に対しては,職種を変更した上で継続雇用するという方針を文書で提案・通知した(以下「本件大綱提案」という。)。本件は,Xらが,RAであるXらとYとの間の労働契約は従事すベき職種がRAとしての業務に限定された契約であるところ,RA制度の廃止は,XらとYとの間の労働契約に違反し,かつ,RAの労働条件を合理性・必要性がないのに不利益に変更する無効なものであると主張して,Yに対し,本件大綱提案でRA制度を廃止するとされている平成19年7月以降も,XらがRAの地位にあることの確認を求めている事案である。
2 本件の争点は,次の3点である。第1の争点は,Xらは「平成19年7月1日以降の原告らのRAとしての地位」についての確認を求める利益を有しているか否かという点である。第2の争点は,XらとYとの間の労働契約は,XらがRAとしての職務に従事することを内容とする職種限定契約であると認められるか否かという点である。第3の争点は,RA制度を廃止し,XらをRAから他職種へ職種変更することについて正当性があるか否かという点である。
本判決は,第1の争点である確認の利益の存否について,これを肯定した。その理由について,本判決は,「現時点(口頭弁論終結時)において,Xらには,平成19年7月1日以降のRAとしての地位について危険及び不安が存在・切迫し,それをめぐってYとの間に生じている紛争の解決のため,判決により当該法律関係の存否を早急に確認する必要性が高く,そのことが当該紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切な方法であると認めることができる。また,仮に,Xらの確認請求を認容する判決がされた場合には,YにおいてもRA制度廃止の方針・内容につき再考する余地も期待することができ,RAの廃止をめぐる現在の紛争の解決のほか,廃止後の条件等をめぐる将来の紛争の予防にもつながる可能性が十分に認められる。そうだとすると,本件訴えは,確認対象の選択の点で不適切であるとはいえず,即時確定の利益についても欠けるところはない」と判示している。
本判決は,第2の争点について,XらとYとの間の労働契約は,XらがRAとしての職務に従事することを内容とする職種限定契約であると認定した。その理由について,本判決は,事実認定を踏まえ,「RAの業務内容,勤務形態及び給与体系には,他の内勤職員とは異なる職種としての特殊性及び独自性が存在し,そのためYは,RAという職種及び勤務地を限定して労働者を募集し,それに応じた者と職種及び勤務地の限定の合意を伴う労働契約を締結したと認めるのが相当である。」と判示している。
本判決は,第3の争点について,RA制度を廃止し,XらをRAから他職種へ職種変更することについて正当性があるとはいえないとして,Yの主張を斥けた。本判決は,まず最初に,職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも,採用経緯と当該職種の内容,使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度,変更後の業務内容の相当性,他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度,それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し,他職種への配転を命ずるについて正当な理由(正当性)があるとの特段の事情が認められる場合には,当該他職種への配転を有効と認めるのが相当であるとの判断基準を明らかにした。本判決は,続いて,正当性の存否について検討し,「YがRA制度を廃止してXらを他職種へ配転することに,経営政策上,首肯しうる高度の合理的な必要性があること及び他職種の業務内容は不適当でないこと」は認められるとした。しかし,Xらの被る不利益は,職種変更後2年目以降は,月例給与分が保障されるのみで賞与相当分につき大幅な減収となることが見込まれることなどを考慮すると,RA制度を廃止してXらの職種を変更することにつき正当性があるとの立証が未だされているとはいえない現状にあるとして,正当性があるとは認めず,その結果,Xらの請求を認容した。