約34ヵ月間にもわたり継続して行政書士に相談する必要があり、かつ、その相談の内容が、行政書士法1 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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約34ヵ月間にもわたり継続して行政書士に相談する必要があり、かつ、その相談の内容が、行政書士法1条の3第3号に規定する相談の範囲内のものであると認めるに足りる証拠がないとして弁護士費用特約に基づく保険金請求を棄却した事案

大阪地方裁判所判決/平成24年(ワ)第11979号

平成25年11月22日

保険金請求事件

【判示事項】    約34ヵ月間にもわたり継続して行政書士に相談する必要があり、かつ、その相談の内容が、行政書士法1条の3第3号に規定する相談の範囲内のものであると認めるに足りる証拠がないとして弁護士費用特約に基づく保険金請求を棄却した事案

【判決要旨】    B行政書士に対する相談の内容を具体的に認定し得る客観的証拠の提出はなく、原告が被告から支払いを受けた19万円の範囲を超えて、約34ヵ月間にもわたり継続してB行政書士に相談する必要があり、かつ、その相談の内容が、行政書士法1条の3第3号に規定する相談の範囲内のものであったことを認めるに足りる証拠もない。

          搭乗者傷害条項における「平常の生活または平常の業務に従事することができる程度になおった」という要件が、完治を意味するものでないことは定義規定からも明らかであり、就労復帰後に業務を行うについて具体的な支障があったことを認めるに足りる証拠もない。

          原告が本件事故前から腰椎椎間板ヘルニアに罹患し、これによる神経症状を発していたことを窺わせる証拠はなく、原告の後遺障害は、いずれも本件事故後に生じたものである。

【参照条文】    保険法2

          行政書士法1の3

          行政書士法19-1

          行政書士法21

          弁護士法72

【掲載誌】     金融・商事判例1432号22頁

【解説】

 本件は、Y損害保険株式会社(被告、以下、「Y社」という)と家庭用総合自動車保険契約(以下、「本件保険契約」という)を締結していたX(原告)が、Y社に対して本件保険契約に基づく弁護士費用等補償保険金、医療保険金および後遺障害保険金等の支払いを求めた事案である。

 Xは平成21年11月5日午後9時12分頃、Xが運転する普通乗用自動車(以下、「X車」という)とAが運転する普通乗用自動車が衝突した(以下、「本件事故」という)。本件事故当時、XはY社との間で、X車を被保険自動車として、弁護士費用等補償特約(以下、「弁特」という)、搭乗者傷害条項が付保されている本件保険契約を締結していた。

 本件保険契約に適用される保険約款において、弁特の用語の説明・定義によれば、弁護士費用等には、損害賠償に関する争訟について、被保険者があらかじめY社の同意を得て支出した行政書士報酬、当該争訟に関する法律相談の対価として支出した費用も含まれる旨の定めがあった。そして、上記法律相談のうち、行政書士が行う、行政書士法1条の3第3号に規定する相談も、一般的に当該資格者の行う相談の範囲内であるとY社が認めた行為も含む旨規定が置かれていた。

 XはY社に対し、本件保険契約に基づく弁護士費用等補償保険金の請求として、B行政書士を作成名義人とする領収書を送付し、平成21年12月から平成22年7月までの請求(初回3万円、次月以降毎月2万円)について、Y社はXに対して、弁護士費用等補償保険金として合計19万円を支払った。またY社はXに対して本件保険契約の搭乗者傷害条項に基づき、平成22年10月1日に、医療保険金として45万円を支払った。

 Xは、B行政書士との間において、eメールによる回数無制限で交通事故相談を受けることができる旨の契約を締結し、相談に対する報酬として、先述の平成21年12月から平成22年7月までのもののほか、平成22年9月から平成24年9月までの間に毎月2万円支払いを行った。

 Xは、Y社に対して平成22年9月から平成24年9月までの未払額の合計50万円に相当する弁護士費用等補償保険金ならびに、搭乗者傷害条項に基づく医療保険金および高度障害保険金の支払いを求めて訴えを提起したのが本件である。

 本判決は、弁護士費用等補償保険金については、すでに支払済みの19万円の範囲を超えて、平成21年11月から平成24年9月までの約34ヵ月間にもわたり継続してB行政書士に相談する必要があり、かつ、その相談の内容が、行政書士法1条の3第3号に規定する相談の範囲内のものであったことを認めるに足りる証拠もないとして、請求を棄却する。

 本件保険契約の弁特と同様に、自動車保険契約の特約とされている被害弁護士費用特約においては、行政書士法1条の3第3号に規定する法律相談および自賠責保険等の保険金請求に関する請求書類作成に関する報酬についても填補対象とするのが一般的である。

 行政書士法1条の2に規定する業務に関しては、行政書士・行政書士法人でない者は、一定の例外を除き、業として行うことができず、罰則の対象とされている(行政書士法19条1項・21条)。これに対して、本件で問題となる行政書士法1条の3第3号については、上記のような罰則規定等はなく、行政書士に限らず誰でも行うことが認められると解される。そのことから、XがB行政書士に本件交通事故に対して自賠責保険以外の保険金請求をする際の書類作成に伴う相談について、拡大解釈して相談業務に含めて解釈できるかについては疑問の余地があり、後述の通り日弁連の見解では否定的に解されているようである。XがB行政書士への相談内容が本件交通事故に伴う保険金請求という紛争に伴う法律相談内容となっている場合には、Y社が主張する通り弁護士法72条違反が問題となる。弁護士法72条の要件に関しては、周知の通り、事件必要説と不要説の対立があるが、本件においては、すでに発生した本件交通事故に基づく自賠責保険金請求や、Y社に対する医療保険金や後遺障害保険金の請求という実際の紛争が予見できることから、いずれの説を採ったとしても結論に相違はないと考えられる。

 本件は、Xから具体的にY社に対してB行政書士に相談内容に関する説明が行われておらず、行政書士法1条の3第3号で認められる相談内容に当たるとする証拠の提出がなされていないことから、弁護士費用等補償保険金の支払いが認められなかったものであり、妥当な結論と考えられる。本件においては、すでに支払った19万円の保険金請求に関しても、通常の自賠責保険金請求の書類作成等の報酬に比べても高額の内容となっていると考えられる。被保険者保護の観点から一定額の支払いをY社は認めたものと考えられるが、行政書士法1条の3第3号、弁護士法72条との関係で、より慎重な態度が求められる場合が今後は考える必要があるとも考えられる。なお、日弁連においては、行政書士が、交通事故による損害賠償請求の和解交渉に用いるための損害賠償額の算定に係る書類を作成すること、これらの書類作成にあたって依頼者の相談に応じて助言することは、行政書士の権限外であり、これらの行為を、報酬を得る目的で、業として行えれば、弁護士法72条に違反すると考えているようである。

 近時、一部の行政書士事務所のウェブサイトにおいて行政書士法1条の3における相談業務をかなり拡大して解釈していると思われる内容のものが見受けられる。同条の解釈や弁護士法72条の解釈を巡り対立があるところであるが、法律相談業務まで行政書士が行った場合、その過誤については、行政書士賠償責任保険の対象にはならないと考えられる。また本件判旨が示した通り、弁護士費用保険に基づく保険金支払いの対象にはならないと考えられる。このような事後的な問題も含めて、行政書士の業務範囲の問題を検討しておくことが必要となる。このことは行政書士に業務を委託する依頼者保護からも必要なことは言うまでもない。

 近時、一部の行政書士に見られる業務拡大が行われている背景には、弁護士に対する法律相談費用や弁護士報酬について、特に少額訴訟になればなるほど、費用対効果の面から弁護士への利用が障害となっていることにあると考えられ、自然と他の隣接士業への相談に一般市民が向かっているものと考えられる。このような費用障害を除去しない限りは、弁護士会において弁護士法72条に抵触することを理由に、隣接士業に対する相談業務の拡大を批判するのみでは、一般市民の理解を得られないとも考えられる。司法アクセスの障害を除去し、本来の法律相談業務は弁護士に安心して一般市民が任せられる環境整備を行うことも弁護士会に求められていると考えられる。その1つの手段として弁護士費用保険の対象分野拡大は一般市民の司法アクセスを保障する制度として有意義なものと考えられる。

 

 行政書士による相談費用等を含めた弁護士費用保険に基づく保険金請求に関しては、すでに、学説においても問題提起がなされていた(山下典孝「わが国における弁護士費用保険に関する1考察」石田重森=江頭憲治郎=落合誠1編『大谷孝1博士古稀記念 保険学保険法学の課題と展望』497頁参照)。

 本件は行政書士の相談費用について弁護士費用等補償保険金の支払いを否定した事案として実務上も意義のあるものと考えられる。なお、本件における問題を含め、弁護士費用保険を巡る問題を検討するものとしては、山下(典)・前掲485~502頁がある。また、弁護士法72条の「その他一般の法律事件」の意義については、最1決平成22・7・20判時2093号161頁参照。