廃棄物処理法15条1項に基づく産業廃棄物の最終処分場の設置届について、栃木県の行政指導要綱が定め | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

廃棄物処理法15条1項に基づく産業廃棄物の最終処分場の設置届について、栃木県の行政指導要綱が定める付近住民の同意が得られていないことを理由として、知事が同届の受理を拒否した処分が違法とされた事例

 

宇都宮地方裁判所判決平成3年2月28日

『平成3年重要判例解説』行政法事件

産業廃棄物処理施設設置届受理拒否処分取消及びに損害賠償請求事件

【判示事項】 「廃棄物処理及び清掃に関する法律」15条1項に基づく産業廃棄物の最終処分場の設置届について、県の行政指導要綱が定める付近住民の同意が得られていないことを理由として、知事が同届の受理を拒否した処分が違法とされた事例

【参照条文】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律15-1

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律15-2

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律15-3

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律15-5

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律8-3

       廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則11

       一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める総理府

       厚生省令

【掲載誌】  行政事件裁判例集42巻2号355頁

       判例タイムズ764号139頁

 一、本件は、原告が「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」という。)15条1項に基づいてした産業廃棄物の最終処分場の設置届について、栃木県知事が、産業廃棄物処理施設の設置等に関する同県の行政指導要綱が定める付近住民の同意を得ていないことなどを理由として、右届出書を返戻し、届出の受理を拒否した処分の取消を求めた訴訟である。

  二1、廃棄物処理法は、産業廃棄物の処理施設の設置について届出制を採用し(同法15条1項)、都道府県知事は、適式な届出があった場合には、厚生省令(本件のような産業廃棄物の最終処分場については、総理府・厚生省令)で定める技術上の基準に適合しているかどうかを審査し、適合していないと認めたときは、その届出を受理した日から30日(産業廃棄物の最終処分場については60日)以内に限り、設置届を提出した事業者に対し、届出に係る計画の変更又は廃止を命ずることができ(同条2項)、事業者は、右期間を経過した後でなければ、当該施設の設置等をしてはならないと定めている(同条5項、8条2項)。

 一方、栃木県では、廃棄物処理法の規制の他に、産業廃棄物処理施設の設置等に関し、産業廃棄物の適正な処理の推進と住民の生活環境の保全を図ることを目的として独自に行政指導要綱を定め、事業者に対し、廃棄物処理法上の設置届の前に県知事との事前協議の申請をするよう求め、右事前協議手続の中において、廃棄物処理法の定める要件を充足するよう指導する他、法律上は求められていない近隣自治体の意見の聴取や付近住民の同意の取得等を指導し、施設設置予定地付近の住民等との利害の調整を図っていた。

  2 原告は、昭和51年ころ本件産業廃棄物処理施設の設置を計画し、昭和54年6月18日、栃木県知事に対し、本件産業廃棄物処理施設の設置届関係書類を提出して、右設置に関する行政指導を求め、その後長期間にわたり、被告知事(その補助機関である栃木県保健所及び栃木県環境整備課)から同県の行政指導要綱に基づく行政指導を受け、本件設置届の提出に至るまでは被告の行政指導に従い、付近住民の同意の取得など行政指導要綱の定める要件を充足するよう努力してきた。

ところで、右行政指導要綱は、「最終処分場の敷地から500メートル以内の区域に居住する者の3分の2以上の同意」を得ることを要件と定めていたが、右要件に該当する住民2名のうち1名が本件施設の設置に反対したため、原告は、行政指導要綱の他の全ての要件を充たしながら、県の事前協議の審査を経ることができなかった。

そこで原告は、平成元年7月26日、右住民の同意を得ないまま、本件設置届を提出したところ、被告知事は、原告に届出書を返戻し、本件設置届の受理を拒否した(本件処分)。

  三、本判決は、要旨次のように判示して本件処分を取り消した。

 即ち、(1)国民の具体的権利義務に直接影響を与える行政処分は、法治主義の原則により、法律の定めに従って行なわれなければならず、本件行政指導要綱のように行政機関が内部規則として定めた行政指導のための準則は、法律等の委任を受けたものでない限り行政処分の根拠とはなりえず、これに基づく行政指導を相手方に強制することはできない。

 (2)したがって、知事が事業者に対し、行政指導に従うことを設置届の受理の条件とすることは法律上根拠を欠くものであり、事業者が適式な設置届を提出するなどして、これ以上行政指導には従えないとの意思を明確に示したときは、行政指導の要件を充たしていないことを理由に設置届の受理を拒否することは原則として許されず、設置届の提出が信義則に反すると認められる特別の事情がある場合(届出を受理されない事業者の不利益と行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、行政指導に対する事業者の不協力が社会通念上正義の観念に反するような特段の事情がある場合)でない限り、設置届の受理の拒否は違法となる。

 (3)本件では、行政指導要綱の定める要件のうち、「最終処分場の敷地から500メートル以内の区域に居住する者の3分の2以上の同意」が得られていないこと以外の全ての要件が充たされており、行政指導の目的とする公益上の必要性はほぼ充たされたといえるのに対し、もし設置届が受理されないと、原告は、住民1人の意思が変わらない限り、永久に設置届を受理されないことになり、その不利益は極めて大きいから、本件設置届書の提出には社会通念上正義の観念に反するような特段の事情は認められず、設置届の受理を拒否した本件処分は違法である。