最高裁判所大法廷判決平成30年12月19日
『令和元年重要判例解説』憲法5事件
選挙無効請求事件
【判示事項】 衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りを定める公職選挙法13条1項,別表第1の規定の合憲性(①事件,②事件)
【判決要旨】 平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙当時において,公職選挙法13条1項,別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
(意見及び反対意見がある。)
【参照条文】 憲法14-1
憲法15-1
憲法15-3
憲法43-1
憲法44
公職選挙法13-1
公職選挙法別表第1
【掲載誌】 裁判所時報1715号1頁
本判決は,1人別枠方式を含む旧区割基準を違憲とした平成23年大法廷判決以降,3回にわたって最高裁において小選挙区選挙の選挙区割りが違憲状態にあると判断された後,国会の立法措置によって改定された本件選挙区割りが違憲状態にあったとはいえないと判示したものであり,昭和51年大法廷判決以降,選挙区間の投票価値の最大較差が2倍を切った初めての衆議院議員総選挙において選挙区割りが違憲状態にあったとはいえないと判断した。
本判決には,林裁判官及び宮崎裁判官の各意見並びに鬼丸裁判官及び山本裁判官の各反対意見が付されている。
(1) 林裁判官の意見は,投票価値の平等に関する合憲性判断に当たって,投票価値の間にほぼ2倍もの格差があってなお不平等でないというのは常識に反すると思われるとし,1人1票の原則による差別の禁止は居住地による差別をも含み,選挙制度の構築に当たって国会が考慮することのある他の諸要素は投票価値の平等原則の下位に立つものであり,よほど合理的な理由がない限り,投票価値の平等が優先的に尊重されなければならないとし,また,本判決の中長期的な影響として,本件選挙につき合憲状態との判定を下すことが,2倍程度の最大較差が恒常化する構造を許容することになりかねず,投票価値の平等を実質的に損なうものであるとして,本件選挙については,較差縮小に向けて相当な改善があったとはいえ,違憲状態を脱して合憲状態にあるとみることはできない旨を述べるものである。
(2) 宮崎裁判官の意見は,憲法の要求する投票価値の平等は,人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし,人口比例以外の要素は合理性がある限り考慮することを許容するものであるから,合理性のない要素を考慮してされた定数配分が実質的にみて是正されたとは評価できない場合には,最大較差が2倍未満であっても,その定数配分が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態ではないと認めることはできないとし,本件選挙時においては,人口の多い都道府県については合理性のない要素を考慮した定数配分の是正がされておらず,合理性がないと判断された要素によって生じている較差部分が具体的な選挙区割りにおいて考慮された諸要素のそれよりも大きいなど,合理性がないと判断された要素を考慮してされた定数配分の影響は実質的に無視し難い大きさであると評価せざるを得ないなどとして,本件選挙区割りは違憲状態であったとし,その上で,国会における平成26年選挙以降にされた是正のための取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったとまでいえないとし,本件区割規定が違憲ということはできない旨を述べるものである。
(3) 鬼丸裁判官の反対意見は,憲法は,衆議院議員選挙について1対1に近い投票価値の平等を保障しており,これが最も重要かつ基本的な基準となるから,議員の定数配分及び選挙区の区割りを定めるに当たっては,それ以外の要素は上記基準に反しない程度の合理性を有するものに限り考慮することができるとした上で,新区画審設置法3条1項がほぼ2倍の較差のある選挙区が多数生じることを当然に容認するものと解することはできず,実質的に1人別枠方式が廃止された上で定数の再配分が行われた場合とは異なる定数の配分がされていたことなどに照らし,本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反するとし,さらに,立法府が真摯に行動していれば,本件選挙実施までに1対1に近い定数配分及び選挙区割りへの是正を行うことは十分可能であったとして,本件区割規定は憲法に違反するとしつつ,今後投票価値の較差の更なる縮小が見込まれることなどに照らして,いわゆる事情判決の法理を適用するのが相当である旨を述べるものである。
(4) 山本裁判官の反対意見は,憲法は,代表民主制に支えられた国民主権の原理を宣明しているところ,選挙区間の投票価値に較差があったとすると,この原理は画餅に帰するから,「公平な選挙」は憲法上必須の要請であるとし,国政選挙の選挙区や定数の定め方において,投票価値の平等は他に優先する唯一かつ絶対的な基準として真っ先に守られなければならないものであり,選挙区における投票価値の較差は1.0となるのが原則であって,人口の急激な移動や技術的理由などの区割りの都合によって許容される一票の価値の較差は,せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり,これ以上の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し,違憲かつ無効であるとし,具体的には一票の価値が0.8を下回る選挙区から選出された議員(本件選挙当日における試算では55人)は,全てその身分を失うものとし,なお,投票所単位など更に細分化するか,全国を単一若しくは大まかなブロックに分けて選挙区及び定数を設定するかしなければ,一票の価値の平等を実現することはできないのではないかと考える旨を述べるものである。