西村周三ほか『社会保障の国際比較研究』
ミネルヴァ書房、2014年。
上記書籍のうち、以下の部分を読み終えました。
第Ⅱ部 比較でみる社会保障制度
第4章 日本
日本では、社会保障費用負担が問題となっている。
しかし、以下の対策が考えられる。
・自由診療や混合診療による医療費の高騰については、自由診療を禁止して、全てについて保険単価を付ければよい。
(注)混合診療とは、公的保険が使える部分と自由診療の部分の両方がある場合をいう。
・医師や看護師の不足。医師は一般的に高収入である。厚生労働省の賃金センサス統計でも、弁護士の約2倍の所得とされている。
したがって、医師や看護師の人数を増やせば、自然に人件費は下がる。
・医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの人数を増やすためには、これらを養成する大学などの学費が高いので、学費が安い国公立の大学の学科、受け入れ学生の定員を増やせばよい。
・少子化を受けて、私立大学の医学部の増設に文部科学省は消極的なようであるが、これを変えるべきである。
・日本では、自治医科大学の実例がある。これは、学費が安い同大学の卒業生に、見返りに、離島・無医村への赴任を義務づけるものである。
なお、これは、医師が都市部での就職を希望するのが多数のために設けられた制度である。
・他の大学で、同様の学部を増設することが考えられる。
・また、同様に、奨学金の返済免除の条件として、離島などへの一定期間の赴任を選択権として与え、離島での勤務の見返りに、奨学金を免除する。
・医師のインターンシップ期間中の義務として、同様の義務または選択権を与えることが考えられる。
・なお、著者の指摘する、レセプト情報の患者本人への開示は実現済みである。
また、総医療費のGDP比較では、カナダ・フランス・ドイツなどが約12%であるのに対して、日本では約9%である。したがって、医療費抑制だけが解決策でもない。
少子化対策として、
・5才からの義務教育の実現。欧米や産油国などの一部の国では既に実現済みである。
・保育制度。待機児童の人数をなくし、希望者全員が入園できるようにすべきである。
第5章 ドイツ
ドイツの社会保障法は、日本とよく類似している。
しかし、以下の点が異なる。
ⅰ)個人事業者にも社会保障の加入義務がある。
ⅱ)高額給与者にも社会保障(被用者の健康保険、厚生年金など)の加入義務がある。
ⅲ)公務員にも社会保障の加入義務がある。公務員共済組合である。
すなわち、国民皆保険である。
また、社会保障の保険料の徴収は、日本では税務署ではなく、日本年金機構、協会けんぽ(政府管掌の健康保険組合)などである。
また、夫婦共稼ぎの場合に、社会保障料の額が、1人しか稼働していない場合に不均衡が生じることが指摘されている。
この点、過去の日本の裁判例では、「2分2乗方式」が税金の計算に当たって主張されたり、税制改革の案として検討されたことがあったが、実現していない。
「2分2乗方式」とは、論者によっていろいろな方式があるが、例えば、夫婦の所得について。所得を合算して、税金の額を算出して、その半額に2倍をかけたもの。
あるいは、別の論者によっては、夫婦それぞれの所得を別に税額を計算して(累進税率の緩和のため)、それぞれの税額を1/2にし、それらを合算する方式。
なお、これらの場合の「分」「乗」は、数学の定義に照らすと正確ではない。
ただし、給与所得者については、少なくとも税金については、経費性を問題としない多額の「給与所得控除」が認められている。
社会保障制度においては、高額給与者については、社会保障料については一定の上限額があり、支払った社会保障料を所得から控除し、所得税・住民税の課税の基礎となる額から控除することができる。
第6章 フランス
1945年以降に社会保障制度が整備された。
日本やドイツと同じように、当初は、被雇用者が加入する社会保障制度が構築された。
なお、日本の近時の社会保障制度と同じように、社会保障料と税金を一体として構築することが議論されている。
もっとも、現在の日本の社会保障法では、社会保障に関して国民が支払う社会保障料の法的性質は「社会保障税」とされ、例えば、労働保険徴収法では、国税徴収法に関する規定が準用され、優先順位は国税に次ぐとされている。
第7章 イギリス
イギリスは「小さい福祉国家」とされている。
しかし、「福祉国家」の程度は、国民負担の割合や金額、支給される社会保障の金額、物価水準などにより、一概には、断定できないであろう。
第8章 アメリカ合衆国
アメリカでは、従業員200人未満の企業の医療保険の加入率が約6割とされているが、
日本では、従業員10人以上の場合には、医療保険(政府管掌の健康保険)を含めて社会保険への加入義務がある。
また、アメリカ法では医療保険料を税額控除方式とされている。
日本では、課税所得からの社会保険・医療費用を控除する方式なので、アメリカ法のほうが、納税者にとって、明らかに有利である。
第9章 フィンランド
北ヨーロッパ諸国、すなわち、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの「高福祉国家」現象は広く知られているが、その秘訣について本書は触れていない。
第10章 韓国
国民の7割が低所得者層という点で、また給付される社会保障の金額も決して最低生活費を上回っていない点で、上述の各国と異なる。
1951年から53年の朝鮮戦争により、戦争孤児や退役軍人の問題が生じ、社会保障法も整備されないままであったので、その後の軍事クーデターや国民の不満につながったとされる。