司法研修所『専門的な知見を必要する民事訴訟の運営』 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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司法研修所『専門的な知見を必要する民事訴訟の運営』
法曹会、平成12年
上記書籍のうち、以下の部分を読み終えました。
医療過誤訴訟、建築関係訴訟、その他の専門的分野の訴訟に関する司法研究である。
著者は、司法研究に従事した裁判官、裁判所職員である。
上記書籍のうち、以下の部分を読み終えました。
第3章 外国における専門訴訟の実情
第1節 ドイツ
1 ドイツにおける専門訴訟の運営
(3)専門訴訟の審理期間
2 ドイツの実情
(1)弁護士の専門分化
(2)独立証拠調べによる鑑定
(3)医師会の設立した調停所と鑑定委員会制度
現在では、日本でも、医療過誤に関するADR(裁判外紛争解決手続)が設置されている。
3 ドイツにおける鑑定人の確保と養成、鑑定人名簿の作成など
(1)建築関係訴訟
(2)医療過誤訴訟
(3)鑑定人の報酬
(4)鑑定人による調査と当事者(対審)公開原則
4 ドイツの専門民事部
第2節 フランスにおける実情
1 フランスにおける専門訴訟の実情
(1)鑑定の職権的活用
(2)専門裁判所と裁判所の専門分化
(3)専門訴訟の手続の流れ
(4)審理期間
2 フランスの実務の特色
(1)鑑定を命じるレフェレ
レフェレとは、提訴前の暫定手続である。
(2)鑑定人主導のレフェレ手続
3 フランスの民事訴訟法の法典における鑑定手続の条文
4 フランスにおける鑑定手続を支える制度的基盤
(1)裁判所による鑑定人名簿
(2)鑑定人協会
フランスでは、国立病院の教授も、鑑定人になることもあるようである。
(3)鑑定人研修プログラム
第3節 アメリカ法、イギリス法
1 アメリカ法
 アメリカ民事訴訟法では、「専門家証人」が証言、あるいは「宣誓供述録取書」などによって、専門的知見を裁判所に提供する。
2 イギリス法
 イギリス法では、民事では陪審制をほとんど使用しない。
 なお、アメリカ法では、民事・刑事の手続で、陪審員制度がアメリカ合衆国憲法上に規定されているのは、植民地時代に本国から来た裁判官が植民地であった人を不利益に取り扱った例があったことから、アメリカ人以外には裁いてもらいたくないという歴史的背景があったとされる。
第4章 日本における専門的訴訟
 若干、私見を補足させていただく。
1、提訴前の証拠保全
 日本では、医療過誤でも実例がよくある。
 ドイツ民事訴訟簡素化法では、証拠保全から、「独立証拠調べ」へと変更した。保全の必要性が緩やかになった。
 日本では、証拠隠滅・改竄のおそれが全くない場合や本案訴訟係属中では、保全の必要性がないので、証拠保全の申立てが却下される。
2、専門家団体との継続的な協議と連携
 日本の民事訴訟法では、いわば同業者に対する損害賠償請求訴訟の鑑定を引き受けることをためらう傾向がある。
 ドイツやフランスでは、鑑定を専門的職業とする医師・建築家が多いようである。引退前の功なり遂げた人、職業経歴に鑑定人としての経歴を積みたい人などがなるようである。
 アメリカでは、当該業界に属する人、あるいは比較的高額な報酬をもらって会計・経済などの専門的職業が存在するようである。
 日本では、裁判所専門の鑑定人協会は存在しない。
ただし、日本では、医師会、建築家学会などと連携を取っているし、それらの推薦を受けて、裁判所独自の鑑定人名簿を作成・更新している。
 なお、日本の不動産鑑定士の協会は、裁判所向けだけではなく、不動産鑑定業の任意的団体である。
不動産鑑定業は、国・地方公共団体・民間などから委託を受けて不動産の価格を鑑定する専門家である。
3、補佐人
 弁理士は、研修・認定を経て、工業所有権に関する審決取消訴訟事件では当然に訴訟代理人となることができ、民事の侵害訴訟事件では、補佐人となることができる。
 当事者が、例えば、租税法に関する訴訟事件で、税理士を「民事訴訟法上の補佐人」として申立て、裁判所の許可を得ている実例がある。
 社会保険労務士や行政書士については、ADRに関与できるものの、訴訟代理人などにはなれない。
4、調査官
 裁判所調査官として、租税法、知的財産権法について、若干名いる。
 平成12年ころ、民間の税理士、弁理士を裁判所調査官として採用して話題になったことがあった。
 しかし、裁判所では、自前で、裁判所職員として、税理士や弁理士を育成することには消極的である。
5、専門委員
 日本では現在、民事訴訟法では、専門家を「専門委員」として民事訴訟手続に関与させることができると規定しているので、税理士や弁理士、医師、建築士などを専門委員として活用している。
6、専門裁判所・参審制度
 ドイツ法、フランス法では、租税法、行政法、社会法(労働法を含む)について、専門裁判所が存在する。
また、その他、フランス法では、商事、農地について、専門裁判所が存在する。
ドイツ法では、専門裁判所ではないが、商事部において、参審員がいる。
フランス法では、職業裁判官以外に、当該分野の職業人が上記の専門裁判所の裁判官になっている。
 アメリカ法では、行政裁判所が存在する。
なお、アメリカ連邦巡回区控訴裁判所(知的財産権専門のCAFC)では、技術者兼弁護士有資格者が裁判官になっている実例がある。例えば、工業科大学を卒業してから、ロースクールに行き、弁護士試験に合格するような経歴が稀ではないため。
7、日本での建築関係事件の現在の実情
 建築関係の民事事件では、3名で成る調停委員会として、弁護士1名と建築士1名を調停委員として選任し、裁判官1名が調停主任になる。
 裁判官・弁護士には訴訟の進行が、建築士には専門的・技術的な知見が期待されている。
 主張・立証を調停手続で尽くさせ、争点整理をし、和解を試み、和解が成立しなければ、証拠調べ(証人尋問など)をして、判決をする。 
8、ADRの活用の現在
 医療過誤のADRについては、前述した。
 住宅品質確保法に基づくADRが、住宅紛争処理センターとして活動している。
 弁護士会・弁理士会が共同運営する日本知的財産権センターがADRを行っている。
9、鑑定人の費用
 当事者が私的に、あるいは裁判所での鑑定人として、依頼する専門家の費用は結構多額であり、弁護士費用以外に必要となる。
また、鑑定に必要な時間がかかるとされている。
もっとも、専門家の過誤とされている点であれば、専門外の人から見れば複雑なのは、ある意味やむを得ないであろう。
 この点が専門訴訟のボトルネックとなっていると指摘されている。
10.今後の課題
 上記以外に、製造物(PL法)、コンピューターソフトウェア、金融商品取引、商品先物取引、会計、税法、相続(財産的・税法的な側面)において、専門家の地検が必要とされている。
このうち、税理士については、日本においては比較的多数いるので、専門委員として登用されやすいようである。
それ以外については、今後の課題であろう。